いいえ、心拍変動(HRV)は高ければ高いほどよいとは限りません。大人数の集団を比べると、安静時HRVが高いことは健康状態のよさと関連しています。しかし、ある一人のある一日の高い値は、 余分な拍動 異所性拍動 心臓の通常のペースメーカー以外の場所から始まり、たいてい早く来る拍動。よくあるものですが、取り除くか補正しない限り心拍変動(HRV)を乱します。 異所性拍動についてさらに詳しく 、センサーのエラー、普段と違うリズム、きついトレーニングから生じることもあります。
レッスン3では、安静時HRVはおもに迷走神経ブレーキがどれだけ働いているかを表すと学びました。そのため、HRVを高いほどよい点数のように扱いたくなります。このレッスンでは、その考え方が当てはまらない場面を説明します。
「高いほどよい」と考えられるようになった理由
この考え方には、確かな根拠があります。2013年に、研究者らが、開始時点で心疾患が知られていなかった22,000人近くを対象とした8件の研究を統合しました。HRVが最も低かった人は、最も高かった人に比べて、初めての心血管イベント(心臓や血管のトラブル)が起こるリスクが32〜45%高くなっていました。
これは集団で見たときの関連です。数千人の集団では、HRVがより低いことが、リスクがより高いことと関連していました。ある朝HRVが上がったからといって、一晩で心臓がより健康になったとは言えません。また、高い数値ならどれもよい数値だとも言えません。
ShafferとGinsberg(2017)によるHRV基準値のレビューは、HRVは高いほどよいとは限らず、健康上の問題のなかにもばらつきを生むものがある、とはっきり述べています。
理由1:自分は平均ではない
HRVは人によって大きく違います。年齢、性別、体力がそれぞれ影響します。同じ年齢の健康な二人でも、安静時HRVの数値が大きく離れていることがあり、どちらも普通の範囲に入っていることがあります。
そのため、友人の数値が自分の二倍でも、二人のどちらについてもほとんど何もわかりません。役に立つのは、自分自身の推移との比較です。一般的な範囲の目安は、良いHRVの値とは?と年齢別の標準的なHRV:範囲と読み方で説明しています。
理由2:余分な拍と乱れた信号
心臓が、ふだん心臓のペースメーカーとして働く部位以外の場所から、早いタイミングで余分な拍を打つことがあります。これを異所性拍動といいます。リングがずれたり、時計が一瞬肌から離れたりといったセンサーの不具合も、データ上はほぼ同じに見えます。
どちらの場合も、非常に短い間隔のあとに非常に長い間隔が続きます。隣り合う間隔の差を追う指標であるRMSSDに、それが何をもたらすかを見てください。
| 拍と拍の間隔(ms) | RMSSD RMSSD 隣接するNN間隔の差の二乗平均平方根。1拍ごとの心拍間隔が次の拍とどれだけ違うかをミリ秒で表すHRV指標で、主に迷走神経の活動を反映します。 RMSSDについてさらに詳しく |
|---|---|
| 1,000、1,020、990、1,010、1,000、980 | 約21 ms |
| 1,000、1,020、990、600、1,400、1,000、980 | 約400 ms |
早いタイミングの拍が一回入ると、数値は二十倍近くになりました。この間、その人の神経系は変わっていません。優れたアプリは、計算の前にこうした拍を見つけて取り除こうとします。これはレッスン5で扱います。ただし、すべてを見つけられるとは限りません。
もう一つのケースは、見分けるのがさらに難しくなります。より高齢の人や心疾患のある人に多いのですが、心臓によっては、ほぼ1拍ごとに間隔が長短を繰り返す、跳ねるようなリズムを示すことがあります。これは迷走神経が引き起こしているのではないようです。研究者はこれを心拍の断片化と呼んでいます。RMSSDなどの指標が上がるので「HRVが高い」ように見えますが、心臓の問題のリスクがより高いことと関連づけられています。
普段より高い測定値に、動悸、めまい、失神、胸の痛み、脈拍が不規則に感じられるといった症状が伴うときは、医師の診察を受けてください。 HRVの数値では、心臓のリズムを調べることはできません。それには、きちんとした心電図( ECG 心電図 皮膚に付けた電極で記録する、心臓の電気的な活動の記録。心電図に基づくRR間隔は、HRVを測るうえでの参照基準です。 心電図についてさらに詳しく )が必要です。詳しくは、HRVで心臓の問題はわかる?をお読みください。
理由3:HRVは心拍数に左右される
HRVと心拍数は結びついています。心臓がゆっくり打つと、間隔の一つひとつが長くなり、長い間隔ほどミリ秒の単位で揺れる余地が大きくなります。そのため、神経系の同じ「ひと押し」でも、心拍数が低いときのほうが、高いときより大きなHRVの数値として表れます。
この関係の一部は、体のしくみによるものです。迷走神経は、心臓をゆっくりにするのと同時に、変動を加えるからです。一部は、純粋に数学的なものです。いずれにしても、安静時心拍数が下がると、HRVも一緒に上がることがよくあります。HRVの跳ね上がりを重く受け止める前に、同じときに安静時心拍数が下がっていないかを確認してください。
下のスライダーで心拍数を動かしてみてください。呼吸による揺れは、1分あたりの拍数で見ると同じ大きさのままですが、ミリ秒で表したRMSSDは、1分あたり50拍のときのほうが1分あたり100拍のときより三倍を超えて大きくなります。
同じ刺激でも、ゆっくりした心拍では
測定ではなく、学習用のモデルです
- 平均の間隔
- 1000 ms
- 1分あたり1拍
- 17 ms
- RMSSD
- 42 ms
- lnRMSSD
- 3.73
- lnRMSSD:RR ×1000
- 3.7
60 bpmでは平均の間隔は1000 msで、1分あたり1拍は17 msに当たります。同じ1分あたり6拍の揺れでも、RMSSDは42 msになります。lnRMSSDは3.73、lnRMSSDとRRの比は3.7です。
JavaScriptをオンにするとスライダーを動かせます。
1分あたり40〜100拍の心拍数に対するRMSSDのグラフです。飽和がないときは曲線が着実に下がり、50拍で約60 ms、70拍で約30 ms、100拍で約15 msです。飽和をオンにすると、破線の2本目の曲線が、1分あたり60拍を下回るところで下に曲がります。スライダーで心拍数を設定でき、チェックボックスで飽和をオンにできます。表示欄には、平均の間隔(ミリ秒)、その心拍数での1分あたり1拍に当たるミリ秒、RMSSD、lnRMSSD、lnRMSSDとRRの比が表示されます。
さらに詳しく 心拍周期、飽和、lnRMSSD:RR比
心拍周期と心拍数。 拍と拍の間隔(ミリ秒)は、60,000を心拍数で割った値です。この曲線は、心拍数が低いところで急になります。1分あたり一拍の違いは、1分あたり50拍では約24 ms、100拍では約6 msにあたります。そのため、神経系の同じ「ひと押し」でも、心臓がゆっくりのときのほうが、ミリ秒で見た変化は大きくなります。Jerzy Sacha(2014)は、これを関係の数学的な部分と呼び、迷走神経が心臓をゆっくりにして変動も加えるという生理的な部分と並べています。
飽和。 心拍数が低い側では、この関係が逆転することがあります。Buchheit(2014)は、体力のきわめて高い人の一部で、間隔が約1000 msより長い(心拍数が60未満の)場合に、迷走神経ブレーキが強くかかりすぎて、拍ごとの揺れが小さくなると説明しています。このとき、迷走神経活動は高まっているのに、HRVは下がります。Plewsら(2013)は、安静時心拍数が下がり続けるなかでHRVが低下したトップレベルの持久系アスリートについて述べています。上のモデルで「飽和」をオンにすると、この様子を確かめられます。
lnRMSSD lnRMSSD RMSSDの自然対数で、単位はありません。対数をとるとRMSSDの値の散らばりが整い、日ごとの変化を比べたり分析したりしやすくなります。 lnRMSSDについてさらに詳しく :RR比。 この二つを見分けるために、Buchheitは、lnRMSSDを拍と拍の間隔の平均で割った値を追うことを勧めています。飽和のときは、間隔が長くなる一方で、この比は下がります。
HRVは心拍数で「補正」すべきか。 研究者の意見は分かれています。De Geusら(2019)は、拍と拍の間隔の平均で割るなどの選択肢を検討しました。著者らがよいとしたのは、最も単純なやり方である、HRVを拍の間隔の平均に対する百分率で表す方法ですが、補正した結果としない結果の両方を報告すること、そして心拍数を単純に「回帰で取り除く」ことは決してしないことを勧めています。自分の推移を見るうえで実用的なのは、HRVと安静時心拍数を並べて読むことです。
理由4:きついトレーニングはHRVをどちらにも動かす
アスリートでは、トレーニングがどう進んでいるかを追うためにHRVがよく使われます。HRVの上昇はトレーニングへのよい反応、低下はよくない反応と読まれるのが一般的です。しかし、トップレベルの持久系アスリートを対象とした数少ない研究では、HRVの上昇も低下も、適応がよくないことと関連していました。体力のきわめて高いアスリートでは、安静時心拍数が下がり続けているのにHRVが下がる、頭打ちの状態になることもあります。
アスリート以外の人でも、普段の範囲から上下どちらかに大きく動いた場合は、気にとめておいたほうがよいでしょう。たとえばGarminは、7日間の平均が自分のベースラインの範囲を下回るときだけでなく、上回るときにも、「HRVステータス」を「アンバランス」と表示します。HRVが突然高くなって理由がわからないときは、HRVが急に普段より高いのはなぜ?をお読みください。
では、何を見ればよいのか?
意外に高い測定値が出る原因には、次のようなものがあります。
| 原因 | 見え方 | 対処 |
|---|---|---|
| 余分な拍やセンサーの不具合 | 一回だけ他よりずっと高い測定値(心拍数は普段どおりのことが多い) | アプリにデータの品質が表示されるなら確認し、測り直してください |
| 心拍数の低下 | 安静時心拍数の低下と、HRVの上昇 | 二つの数値を一緒に見てください |
| きついトレーニング期間 | 普段の範囲を上回る7日間の平均と、抜けない疲れ | 推移、 安静時心拍数 安静時心拍数 完全に安静にしているときの、毎分の心拍数。成人では通常、毎分60〜100拍で、よく鍛えた選手ではそれより低くなります。 安静時心拍数についてさらに詳しく 、体調を見てください |
| 不規則なリズム | 大きく飛ぶ測定値(症状を伴うこともある) | 医師の診察を受けてください。動悸やめまいがあるときはとくに |
「HRVは高いか」と問う代わりに、次のように考えてください。
- 今日の数値は、自分の普段の範囲に入っているか。
- 7日間の平均は、どちらの向きに動いてきたか。
- 安静時心拍数は、どう動いているか。
- 実際の体調はどうか。
HRVは申し分ないのに疲れているときは、体調のほうを信じて、HRVはよいのに疲れているのはなぜ?をお読みください。自分のベースラインのつくり方と推移の読み方は、レッスン10で説明しています。
次はHRVの求め方:拍から数値までで、デバイスがどのように個々の拍を見つけ、データを整え、数値を計算するのかを説明します。