心拍変動(HRV)の数値はどれも、同じ四つの段階でできています。一拍ごとの位置を見つけ、拍と拍の間隔を測り、悪い拍を取り除き、残った間隔を一つの数値にします。このレッスンでは、紙の上でもできる計算を使って、各段階を順に説明します。
レッスン2では、HRVを表す図、つまり拍と拍の間隔が上下に揺れる線を見ました。レッスン4では、悪い拍が一つあると数値が大きくずれることがあるのを見ました。ここでは、機器が心拍から画面の数値までどうたどり着くのかを見ます。
段階1:一拍ごとの位置を見つける
機器はまず、各拍がいつ起こるかを正確に知る必要があります。主な方法は二つあります。
心電図 心電図 皮膚に付けた電極で記録する、心臓の電気的な活動の記録。心電図に基づくRR間隔は、HRVを測るうえでの参照基準です。 心電図についてさらに詳しく (ECG):胸部ストラップと医療用の心電図。 皮膚の上の電極が、心臓の電気信号を拾います。拍ごとに、R波と呼ばれる高く鋭いスパイクが出ます。スパイクが鋭いので、ソフトウェアは時刻をとても正確に測れます。心電図がHRVの測定でゴールドスタンダードとされるのは、このためです。
光電式容積脈波 PPG 皮膚に光を当て、心拍ごとの血液の拍動を検出する光学的な方法。ほとんどの時計、リング、スマートフォンのカメラアプリが、これで心拍変動(HRV)を推定します。 PPGについてさらに詳しく (PPG):時計、リング、スマートフォンのカメラ。 光学センサーが皮膚に光を当て、どれだけ戻ってくるかを測ります。心拍のたびに血液の脈がセンサーの下を通り、信号が変わります。機器が時刻を測るのは、電気的な拍ではなく、その脈波です。
脈波は、心臓が拍動してから少しあとに、手首や指に届きます。そのため厳密には、光学式の機器が測るのは心拍変動ではなく脈拍変動( PRV 脈拍変動(PRV) 脈拍と脈拍の間隔の変動を、時計、リング、スマートフォンのカメラが光学的に測ったもの。安静時は心拍変動(HRV)によく追従しますが、動いているときはずれていきます。 脈拍変動(PRV)についてさらに詳しく )です。安静時には、この二つは大半の用途に十分なほど一致します。光学式の測定は、心電図よりも短期の変動がやや大きく出る傾向があります。呼吸が、皮膚に届くまでの脈に影響することも一因です。動くと、一致の度合いはずっと悪くなります。スマートフォンのカメラのアプリも原理は同じです。詳しくはスマートフォンのカメラでHRVは測れる?をご覧ください。
センサーが見る頻度
センサーは心臓を常に見ているわけではありません。1秒に何度も、スナップショットを撮っています。1秒あたりのスナップショットの数がサンプリング周波数で、単位はヘルツ(Hz)です。機器は拍をいずれかのスナップショットの上にしか置けないので、拍の時刻は最も近いスナップショットに丸められます。
最も近いスナップショットに丸めると、拍の位置はスナップショットの間隔の半分までずれます。1000 Hzではスナップショットが1 msおきなので、拍は本当の時刻から0.5 ms以内に収まります。250 Hzでは2 ms以内です。スマートフォンのカメラは1秒に約25〜30枚を撮るので、各拍が最大で20 msずれることがあります。2024年の研究ガイドラインは、より慎重な値として間隔一つ分(1000 Hzで±1 ms、250 Hzで±4 ms)を挙げ、1000 Hzを勧めています(Quigleyら, 2024)。
これが最も響くのがRMSSDです。RMSSDは間隔から間隔への変化を測りますが、丸めの誤差は、そうした変化とまったく同じに見えるからです。このコースの五分間の教材用の記録で、すべての拍の時刻を、1秒25枚の画像のうち最も近い一枚に合わせると、RMSSDは31%、およそ三分の一も高く出ます。ソフトウェアは、脈のピークが二枚の画像のあいだのどこにあったかを推定して、そのかなりの部分を取り戻せます。アナリストのレベルにあるレッスン16では、すべてのサンプリング周波数を自分で試せます。電極から数値へ:信号の流れをご覧ください。
段階2:間隔を測る
次に機器は、各拍から次の拍までの時間をミリ秒(ms)で測ります。レッスン1で出てきたRR間隔です。短いリストなら、次のようになります。
810、830、790、850、820 ms
これは六つの拍のあいだの、五つの間隔です。間隔の平均は820 msで、心拍数にすると1分あたり約73拍です。
段階3:リストを補正する
実際の記録は乱れています。機器は、次のようなことをしてしまうことがあります。
- 拍を見逃す(一つの間隔が、本来の二倍の長さに見える)
- なかった拍を数える(一つの間隔が、二つの短い間隔に分かれる)
- ふだん心臓のペースメーカーとして働く部位以外の場所で始まった本物の余分な拍、つまり異所性拍動を捉える
- 動きや緩んだストラップによるノイズを拾う
どれも、隣り合う間隔のあいだに偽の跳びを作ります。レッスン4で見たように、こうした跳びが一つあると、RMSSDが何倍にもなることがあります。短い記録では、編集した拍がわずか(5%未満)でも、結果が変わることがあります。
そこでソフトウェアは、計算の前に、二つの手順でリストを補正します。こうして残った、正常な拍どうしの間隔を、 NN間隔 NN間隔 余分な拍と測定エラーを取り除いたあとの、正常な二つの拍動の間のRR間隔で、単位はミリ秒。心拍変動(HRV)指標の大半は、NN間隔から計算します。 NN間隔についてさらに詳しく (normal-to-normal)と呼びます。
まず、悪い間隔を見つけます。 よく使われるルールは、各間隔を前後の間隔と比べ、一定の量を超えて違うものに印をつけます。厳しいルールは小さな誤りも捉えますが、本物の拍にも印をつけ始めます。ゆるいルールは、誤りを通してしまいます。
次に、それを直します。 ソフトウェアは、悪い間隔を削除するか、前後の良い間隔から作った値で埋めます。埋めると記録のリズムの足並みが保たれ、一部の指標ではこれが重要です。削除のほうが単純です(Peltola, 2012)。
どこまで直すと多すぎるのでしょうか。間隔の5%に満たない編集でも、短時間の結果は変わることがあり、多くの研究は、正常な拍が80%に満たない記録を除外します(Peltola, 2012)。広く使われている研究用プログラムKubiosのガイドは、補正した拍を5%未満にとどめるよう勧めています(Alcantaraら, 2020)。
レッスン16では、補正の方法を名前とともに紹介し、五分間の記録で比べます。悪い拍を自分で仕込んで補正することもできます。
この段階を目にすることは決してありません。アプリが、独自の方法としきい値で、黙って行います。同じ夜でも、二台の機器が違う数値を出すことがある理由の一つです。
段階4:間隔を数値にする
ここからは計算です。短時間のHRVの主な指標はRMSSDで、「 隣接するNN間隔の差の二乗平均平方根 RMSSD 隣接するNN間隔の差の二乗平均平方根。1拍ごとの心拍間隔が次の拍とどれだけ違うかをミリ秒で表すHRV指標で、主に迷走神経の活動を反映します。 RMSSDについてさらに詳しく 」(root mean square of successive differences)の略です。名前は難しそうですが、実際には四つの小さな手順にすぎず、英語名の語順とは逆の順に行います。
先ほどの五つの間隔を使います。
| 間隔(ms) | 直前の間隔との差(ms) | 差の二乗 |
|---|---|---|
| 810 | ||
| 830 | +20 | 400 |
| 790 | −40 | 1,600 |
| 850 | +60 | 3,600 |
| 820 | −30 | 900 |
- 隣り合う間隔の差。 各間隔から、その前の間隔を引きます。+20、−40、+60、−30です。
- 二乗。 各差を自分自身にかけます。400、1,600、3,600、900です。二乗すると値がすべて正になるので、下がった分も上がった分と同じだけ数えられます。大きな跳びには、余分な重みもかかります。
- 平均。 二乗の平均を求めます。6,500 ÷ 4 = 1,625です。
- 平方根。 平方根をとります。√1,625 ≈ 40です。
この五つの間隔のRMSSDは、約40 msです。 平たく言えば、ある拍から次の拍へ進むとき、間隔は典型的には約40 ms変わっていました。
もっと長いリストで試してみましょう。下のウィジェットは、このサイトの教材用の記録の十拍から、RMSSDを手順ごとに計算します。「次へ」を押して手順を進めるか、どれかの拍を変えて、すべての手順が更新されるのを見てください。
RMSSDをステップごとに計算
10拍分、すべての数値を表示
この10個の間隔のRMSSDは26.9 msです。
ステップ 5 /5
ステップ1/5 間隔を確認する
1拍目 880 ms 2拍目 826 ms 3拍目 812 ms 4拍目 823 ms 5拍目 848 ms 6拍目 877 ms 7拍目 880 ms 8拍目 866 ms 9拍目 828 ms 10拍目 815 ms 11拍の間の10個の間隔(ミリ秒)です。
ステップ2/5 次の間隔から、その前の間隔を引く
2拍目 − 1拍目 −54 ms 3拍目 − 2拍目 −14 ms 4拍目 − 3拍目 +11 ms 5拍目 − 4拍目 +25 ms 6拍目 − 5拍目 +29 ms 7拍目 − 6拍目 +3 ms 8拍目 − 7拍目 −14 ms 9拍目 − 8拍目 −38 ms 10拍目 − 9拍目 −13 ms プラスは、その拍で心拍がゆっくりになったこと、マイナスは速くなったことを表します。
ステップ3/5 各差を二乗する
差1 2916 差2 196 差3 121 差4 625 差5 841 差6 9 差7 196 差8 1444 差9 169 合計 6517 二乗すると値がすべて正になり、大きな変化の重みが増します。
ステップ4/5 二乗した値を平均する
6517 ÷ 9 724.11 ステップ5/5 平方根を取る
√724.11 26.9 ms RMSSD 26.9 ms
JavaScriptをオンにすると、ステップが1つずつ表示され、拍の値を変更できます。
ミリ秒で表した10個の心拍間隔が、編集できる形で1行に並び、その下にRMSSDの計算が番号付きのステップで続きます。間隔を確認する; 次の間隔から、その前の間隔を引く; 各差を二乗する; 二乗した値を平均する; 平方根を取る。最後のステップでは、RMSSDは26.9 msです。「戻る」「次へ」ボタンでステップを移動できます。
RMSSDのとなりには、もう一つの指標、SDNNがよく並んでいます。すべての間隔の標準偏差で、間隔が平均のまわりにどれだけ広がっているかを示します。この五つの間隔では、SDNNは約22 msです。二つの指標は、レッスン6で比べます。
さらに詳しく RMSSDの式を記号で書く
間隔をRR₁、RR₂、…RRₙと書きます。隣り合う間隔の差はdᵢ = RRᵢ₊₁ − RRᵢで、n − 1個あります。
RMSSD = √( (d₁² + d₂² + … + dₙ₋₁²) ÷ (n − 1) )
この五つの間隔では、n − 1 = 4個の差があるので、二乗の和(6,500)を4で割ります。実際のソフトウェアは、補正後のNN間隔に対して、独自の補正と平均の取り方でこれを実行するため、結果が手計算と完全には一致しないことがあります。
SDNNは代わりに、すべての間隔と平均の間隔との距離を使います。各距離を二乗して足し、n − 1で割り、平方根をとります。810、830、790、850、820では、820からの距離は−10、+10、−30、+30、0です。二乗の和は2,000になり、√(2,000 ÷ 4) ≈ 22 msです。
記録の長さ
ここまでは五つの間隔を使いました。実際の記録ははるかに多くの間隔を使い、長さが結果を左右します。
研究では、短時間のHRV記録の通常の標準は5分間です。それより短い記録は、超短時間と呼ばれます。24時間の記録は、長時間のHRVの標準で、主に医学研究で使われます。
RMSSDは短い記録でも安定しています。健康な成人70人を対象とした研究では、わずか1分間、さらには10秒間から求めたRMSSDも、5分間の値とよく一致しました。SDNNは一致しませんでした。成人3,387人を対象としたはるかに大きな研究でも同じ結果でした。10秒間の心電図一回で妥当なRMSSDが得られ、10秒間の区間を三つ平均するとさらによく、2分間は4〜5分間の記録とほぼ完全に一致しました。
SDNNのふるまいが違うのは、遅い変化も含めて、すべての間隔の広がりを測るからです。記録が長くなるほど、姿勢や活動から昼夜のサイクルまで、より遅いリズムが入ってきます。そのためSDNNは、長さとともに大きくなり続けます。シミュレーションした一日の上で、下のウィンドウを5分間から24時間までドラッグしてみてください。RMSSDはほとんど動かず、SDNNはほぼ三倍になります。
どのくらいの時間、記録すればよいか
シミュレーションした1日で、実在の人ではありません
- RMSSD
- 37.2 ms
- SDNN
- 29.7 ms
- ウィンドウに含まれる拍の数
- 327
5分では、RMSSDは37.2 ms、SDNNは29.7 msです。これが短時間記録の標準です。
JavaScriptをオンにするとスライダーを動かせます。
記録時間に対するRMSSDとSDNNのグラフで、横軸は10秒から24時間までの対数軸です。RMSSDの線は、どの長さでもほぼ37 msです。SDNNの線は、数分まではほぼ30 msで、24時間では約84 msまで上がります。破線の印は最低限必要な長さを示し、HF帯は1分、LFは2分、短時間記録の標準とVLF帯は5分、DFA α2は20分、ULFと長時間のSDNNは24時間です。スライダーでウィンドウの長さを選べます。表示欄には、RMSSD、SDNN、ウィンドウに含まれる拍の数が表示されます。
指標ごとに、必要な最小の長さがあります。
| 指標 | 使える最短の記録 | 出典 |
|---|---|---|
| RMSSD | 10秒〜1分。長いほど安定 | Munoz, 2015、Nussinovitch, 2011 |
| SDNN SDNN 記録に含まれるすべてのNN間隔の標準偏差で、単位はミリ秒です。全体の変動を表し、値は記録時間に強く左右されます。 SDNNについてさらに詳しく | 少なくとも30秒。同じ長さのものどうしでのみ比較できる | Munoz, 2015、ShafferとGinsberg, 2017 |
| 長時間のSDNN | 24時間 | ShafferとGinsberg, 2017 |
HRVを遅いリズムと速いリズムに分ける指標には、より長い記録が必要です。どれだけ長いかは、出典によって違います。レッスン18で、ルールと、意見が分かれる点を説明します。
長さの違う記録の数値は、比べるべきではありません。24時間のSDNNには、5分間のSDNNにはない、心臓のリスクについての情報があります(ShafferとGinsberg, 2017)。
睡眠中に測るリングや時計は、それぞれ独自の記録ウィンドウと、それを組み合わせる独自の方法を選びます。これも数値が食い違う理由の一つで、レッスン8で扱います。
誤差が入り込む場所
次の問題は、段階1か段階3で起こります。
- 動き。 心電図にもPPGにもノイズを加え、影響が最も大きいのはPPGです。
- 接触不良。 ストラップや電極が緩んだり、リングがずれたりすると、拍を見逃すことがあります。
- 余分な拍。 補正が見逃すと、RMSSDが急に跳ね上がります。
- センサーの種類。 光学センサーが測るのは電気的な拍ではなく脈なので、体を動かしているときは心電図からさらに離れます。
機器どうしを比べたいときは、手首のHRVは胸部ストラップと同じくらい正確?をお読みください。方法と機器の全体像は、HRVの測り方:センサー・タイミング・精度にあります。
これでレベル1は終わりです。次のレッスンRMSSD、SDNN、lnRMSSDの解説では、主なHRV指標を比べ、アプリが表示しているのはおそらくどれなのかを学びます。