心拍変動(HRV)の良い測定とは、繰り返せる測定です。毎日同じ時刻に同じ姿勢で測り、自然に呼吸して、一〜五分間じっとしていてください。そうすれば、日ごとに見える変化は測定環境ではなく、自分自身の状態を反映します。
このレッスンで扱うのは、胸部ストラップとアプリ、またはスマートフォンのカメラなどで、自分で行う短い測定です。最後の節では、同じ考え方を、リングや腕時計の夜間のデータに当てはめます。
機器より条件が重要な理由
HRVは、そのときの行動にすばやく反応します。研究のガイドラインは、体の姿勢、会話、動き、呼吸、カフェイン、アルコール、食事、前日の激しい運動を、研究者が統制するよう求めています。どれもHRVを変える可能性があるからです(Labordeら, 2017、Cataiら, 2020)。
条件が朝ごとに変わると、測定値も変わります。そのため、実際には日々の習慣の違いを映しているだけの推移を、追いかけてしまうことがあります。これは、どんな機器でも補正できません。
良い朝の測定のための六つのルール
- 目覚めてから間もなく、毎回同じ時刻に測ってください。 先にトイレに行き、コーヒーや朝食、スマートフォンの確認より前に測ります。
- 毎日同じ姿勢で測ってください。 横になっても座っても構いません。どちらかに決めて、それを続けてください。
- 自然に呼吸してください。 毎回そうしている場合を除き、呼吸をゆっくりにしたり、ペースを合わせたりしないでください。
- 声を出さず、じっとしていてください。 話したり、メッセージを読んだり、もぞもぞ動いたりしないでください。
- 一〜五分間記録してください。 毎日同じ長さにしてください。
- 同じ機器とアプリを使ってください。 レッスン8で見たように、機器が違えば数値も違います。
これらのルールは、Cataiら(2020)の標準化チェックリストと、Labordeら(2017)の推奨に沿って、家庭向けに調整したものです。研究のプロトコルはさらに踏み込み、数値で決めています。
| 研究の記録の前に | ルール | 出典 |
|---|---|---|
| 記録の姿勢で落ち着く | 少なくとも5分(一方のガイドライン)、少なくとも15分(もう一方) | Laborde, 2017、Catai, 2020 |
| コーヒー、紅茶、エナジードリンク | 記録前の2時間は摂らない | Laborde, 2017 |
| 食事 | 記録前の2時間は摂らない | Laborde, 2017 |
| アルコール | 記録前の24時間は摂らない | Laborde, 2017 |
| 運動 | 前日に激しいトレーニングをしない | Laborde, 2017 |
| 睡眠 | 普段どおりの夜。就寝時刻と起床時刻を記録する | Laborde, 2017 |
| 膀胱 | 先にトイレに行く | Laborde, 2017 |
| 時刻 | 毎回同じ | Laborde, 2017、Catai, 2020 |
| 姿勢と動き | 同じ姿勢。動いたり話したりしない | Laborde, 2017 |
家庭では、これをすべて統制することはできません。そのため、同じにできなかったことを書き留めておいてください。やり方は、最後の実践課題で示しています。
測定はどのくらいの長さにすればよい?
短時間のHRV記録の研究上の標準は5分間です。1996年に欧州心臓病学会と北米ペーシング・電気生理学会のタスクフォースが国際標準として定め、研究どうしで結果を比べる必要がある場面では、今も推奨されています(Task Force, 1996、Labordeら, 2017)。とくにRMSSDなら、それより短くても済むことがよくあります。
平均年齢53歳の成人3,387人を、横になって測った研究では、10秒間一回分のRMSSDが、標準の4〜5分間の記録とすでによく一致し、2分間ではほぼ完全に一致しました。SDNNにはもっと時間が必要で、著者らは少なくとも30秒間を提案しています(Munozら, 2015)。エリート選手三人を対象とした、より小規模な研究では、横になった状態で2分間あれば正確なRMSSDが得られ、1分間のウィンドウでは精度が明らかに下がりました。著者らは、そのウィンドウが始まる前に、約一分間、心拍を落ち着かせることを提案しています(Bourdillonら, 2017)。
したがって、毎日のRMSSDの測定なら、一分間落ち着いてからの一〜二分間が妥当です。毎日同じ長さにするのであれば、もっと長くても構いません。
横になる?座る?立つ?
姿勢ごとに値が違います。研究のガイドラインが、HRVは体の姿勢に「非常に敏感」だと述べるのは、このためです。立つと、血液が脚にたまります。すると圧受容器反射が迷走神経ブレーキをゆるめ、アクセルを踏んで、頭への血流を保ちます。Quigleyら(2024)は、立っているときは迷走神経の活動がより低く、交感神経の活動がより高くなり、横になっているときと比べると差はさらに大きいと述べています。
下のモデルで、姿勢を一つずつ選んでみてください。横になる、座る、立つの順に、心拍数が上がり、RMSSDが下がります。変化の大きさは教材用のモデルのもので、覚えておいてほしいのは変化の向きです。
ブレーキとアクセル
測定ではなく、学習用のモデルです
- 心拍数
- 60 bpm
- RMSSD
- 58 ms
下のスライダーで設定します
横になって。 心臓は重力に逆らって働く必要がありません。ブレーキが最も強く効き、心拍数は最も低く、拍と拍の間隔は最もよく変わります。
JavaScriptをオンにすると、スライダーとプリセットが使えます。
心臓は、2本のスライダーで決まる速さで拍動します。1本は迷走神経ブレーキ(副交感神経)、もう1本はアクセル(交感神経)です。心拍の列と、各拍の直前の間隔を結んだ線で、リズムがどれだけ整っているかがわかります。ブレーキを上げると、心拍がゆっくりになって間隔がよく変わるため、RMSSDが上がります。アクセルを上げると、心拍が速くなって間隔が整うため、RMSSDが下がります。ボタンを押すと、横になった状態、座った状態、立った状態の設定になり、それぞれに短い説明が付きます。立つとブレーキが弱まり、アクセルが強まります。
研究者の中には、朝起きてすぐ、外の要因の影響が最も少ないときに、横になって測ることを勧める人もいます(Labordeら, 2017)。いつも同じ姿勢をとり、始める前にその姿勢で落ち着くのであれば、座っても構いません。Labordeらは、例として座った姿勢での安静時の記録を挙げています。してはいけないのは、両方を混ぜることです。火曜日に座って測った値と、水曜日に横になって測った値は、二つの別のものを測っています。
起立テストという選択肢
アプリや時計には、この変化をあえて使うテストを備えたものがあります。2分間横になるか座ったまま静止したあと、2分間立ちます。アプリは、両方の姿勢での心拍数とRMSSDに加え、立った直後のピーク心拍数を記録します。たとえばPolarの起立テストは、28日間に四回のテストがそろうと、各テストを自分の普段の範囲と比べます。普通の測定より時間がかかり、胸部ストラップも必要ですが、朝のチェックに、小さくて繰り返せる負荷が加わります。読み方は、HRV起立テストとは?やるべき?で説明しています。
呼吸は自然に?ペースを合わせる?
呼吸の速さと深さは、HRVを変えます。研究のガイドラインは、安静時の測定では自然に呼吸することを推奨しています(Labordeら, 2017)。毎分六回前後のゆっくりした呼吸では、呼吸のたびに心拍数の上がり下がりがずっと大きくなるため、行っているあいだHRVが上がります(LehrerとGevirtz, 2014)。リラクゼーションの練習としては役に立ちますが、行う日と行わない日があると、推移を追うための測定が台なしになります。
ペーサーは、ゆっくりした呼吸がどんな感じかを体験するために使い、毎日の測定中には使わないでください。めまいやふらつきを感じたら、やめてください。
悪い測定のサイン
次の場合は、測定値を捨てて、測り直してください。
- 測定中に動いた、話した、または邪魔が入った。
- アプリが、信号が悪い、動きがある、余分な拍があると警告した。
- 値が普段の範囲から大きく外れていて、波形の急な乱れなど、はっきりした原因が見える。
損なわれた測定値を、平均されて薄まることを期待して残さないでください。RMSSDは隣り合う拍の差から計算するため、見逃した拍や余分な拍が一つあると、非常に大きな偽の差が生まれます。短い記録では、補正した拍が数個でも、RMSSDが変わることがあります(Peltola, 2012)。心臓そのものから始まる余分な拍( 異所性拍動 異所性拍動 心臓の通常のペースメーカー以外の場所から始まり、たいてい早く来る拍動。よくあるものですが、取り除くか補正しない限り心拍変動(HRV)を乱します。 異所性拍動についてさらに詳しく )も、HRVを計算する前に、取り除くか置き換える必要があります(Task Force, 1996、Quigleyら, 2024)。アプリが不規則な拍を頻繁に知らせる場合や、動悸を感じる場合は、医師に相談してください。
測定値が体感と合わなくても、それだけで間違いとは限りません。記録がきれいだったなら、残してください。自分のベースラインと照らして判断する方法は、レッスン10で説明します。
夜間のデータを使う場合
同じ考え方が、リングや腕時計にも当てはまります。就寝時刻をおおむね一定にし、毎晩同じように機器を着け、遅い時間のお酒、重い食事、遅い時間の運動など、その夜を変えるものを書き留めてください。それぞれの方法の長所と短所は、夜間と朝のHRV、どちらが役立つ?をご覧ください。朝のコーヒーを待つ理由はカフェインとHRV:コーヒーで下がる?に、スマートフォンで測る場合はスマートフォンのカメラでHRVは測れる?にあります。方法の全般は、HRVの測り方:センサー・タイミング・精度をご覧ください。
次は、HRVのベースラインをつくり、推移を読むです。