心拍変動(HRV)とは、心拍と心拍の間隔が1拍ごとにどれだけ変わるかです。拍と拍の間隔を、順に1つずつグラフに置くと、HRVはその線がどれだけ揺れるかになります。
レッスン1では、心臓が時計のように正確に刻んでいるわけではないことを見ました。このレッスンは、その考え方を1枚の図にします。この図が読めるようになると、HRVの数値の多くが意味をもって見えてきます。
図:拍と拍の間隔を順に並べる
心臓の記録から始めます。 心電図 心電図 皮膚に付けた電極で記録する、心臓の電気的な活動の記録。心電図に基づくRR間隔は、HRVを測るうえでの参照基準です。 心電図についてさらに詳しく (ECG)は心臓の電気的な活動を記録し、各拍は背の高いスパイクとして現れます。腕時計、リング、胸部ストラップは、もっと簡単なやり方で同じ仕事をします。各拍が起きた瞬間を記録するのです。
次に、各拍から次の拍までの間隔を、ミリ秒(ms)で測ります。すると、1,004、1,034、1,020、987、969などのリストが得られます。これをグラフにします。
- 横軸に拍の番号(1番目の間隔、2番目の間隔、3番目の間隔)を置きます。
- 縦軸に、各間隔の長さをミリ秒で置きます。
- 点を線で結びます。
このグラフをタコグラムといいます。HRVの数値は、どれもこうしたグラフを要約したものです。
線が上がるときは、間隔が長くなっていて、心臓は遅くなっています。下がるときは、間隔が短くなっていて、心臓は速くなっています。安静時には、呼吸に合わせて、線がなだらかな波を描いて上下することがよくあります。
次に、揺れの大きさを見ます。大きく上下する線は、間隔が大きく変化していることを意味し、変動が大きいということです。ほぼ平らな線は、各間隔が直前の間隔とほとんど同じで、変動が小さいということです。
試してみる:線を揺らす
下のグラフには16拍が示されています。上に並ぶ印は各拍が起こるタイミングを、下の線は各間隔の長さを表します。スライダーを動かして、間隔の変動の大きさを変えてみてください。
- RMSSD
- 30 ms
- SDNN
- 24 ms
- 心拍数
- 60 bpm
16回の心拍を示すインタラクティブなグラフです。スライダーで、拍と拍の間隔がどれだけ変わるかを調整します。動かすと、RMSSD、SDNN、心拍数の値が更新されます。
次の三つを試してください。
- スライダーを左端までいっぱいに動かします。すべての間隔が、ちょうど1,000 msになります。線は平らになり、2つのHRVの数値はどちらも0 msに下がります。
- 真ん中まで動かします。線が波を打ちはじめ、HRVの数値が上がります。
- 右端までいっぱいに動かします。線は大きく振れ、数値は最も高くなります。
このとき、心拍数の欄も見てください。ずっと約60 bpm(1分あたりの心拍数)のままです。心臓の拍動の速さは変わらず、変わるのは拍の間隔だけです。
心拍数が同じでも、HRVは違う
心拍数がどちらも60 bpmの2人でも、一方のHRVがはるかに高いことがあります。HRVが測るのは、間隔がどれだけ変動するかであり、心臓がどれだけ速く打つかではないからです。
考え方を示すために、架空の例を使います。2人とも、16個の間隔の平均がちょうど1,000 msで、これは60 bpmにあたります。下の2つのグラフは、900〜1,100 msの同じ目盛りを共有し、平均を破線で示しています。
Aさん
平均間隔:1,000 ms(60 bpm) RMSSD 10 ms
Bさん
平均間隔:1,000 ms(60 bpm) RMSSD 56 ms
上下に並んだ2つの折れ線グラフです。それぞれ、900〜1,100ミリ秒の目盛りに、16個の拍の間隔と、平均の1,000 msを示す破線が描かれています。Aさんの線は平均から10 ms以内にとどまり、ほぼ平らに見えます。RMSSDは約10 msです。Bさんの線は、約945〜1,060 msの間を波のように上下します。RMSSDは約56 msです。2人とも平均は1,000 msで、1分あたり60拍にあたります。
Aさんの間隔の変化は1拍ごとに2〜20 msなので、線はほぼ平らです。Bさんの間隔は、最大で約80 ms変わるため、線は波になります。心拍数は同じでも、HRVは大きく違います。
HRVと心拍数を、別々の2つの数値として追う意味があるのは、このためです。詳しい比較は、HRVと安静時心拍数の比較をご覧ください。
図から数値へ
アプリは、毎朝グラフを見せて、揺れを判断してもらうわけにはいきません。必要なのは1つの数値です。そこで、おおよそ次のことをします。
- 各間隔と、そのすぐ後の間隔を見ます。
- 2つがどれだけ違うかを記録します。
- その違いを、記録全体で平均します。
結果は、ミリ秒で表された数値になります。隣り合う間隔の差が大きいと、大きな数値になり、小さいと小さな数値になります。この指標がRMSSDです。研究者が、素早い拍ごとの変化を見るために使う主な指標です。上のインタラクティブなグラフには、これに加えて、すべての間隔がどれだけ散らばっているかを見るSDNNという第2の指標も示されます。
計算はまだ理解しなくて構いません。レッスン5では、実際の数値を使って、計算を一段階ずつ説明します。
アプリによって使う指標も目盛りも違うため、あるアプリの数値が、別のアプリの数値と比べられるとは限りません。RMSSDをmsで表示するアプリもあれば、スコアで表示するアプリもあります。実践課題で単位を書き留めるよう求めるのは、このためです。
揺れが語ること
揺れの大半は、神経系が生み出しています。安静時には、素早い拍ごとの変化の多くが迷走神経に由来し、迷走神経は1秒未満で心臓を遅くできます。RMSSDが、体の「 休息と消化 副交感神経系 自律神経系の「休息と消化」の枝。おもに迷走神経を通して心拍を遅くし、心拍変動(HRV)の拍ごとの変動の大半を生み出します。 副交感神経系についてさらに詳しく 」の側がどれだけ活発かを示す目安としてよく使われるのは、このためです。
リラックスしているときは、拍ごとの変動が大きくなる傾向があります。体が「闘争・逃走」のモードに寄っているときは、小さくなる傾向があります。しくみはレッスン3で、数値が高いほどよいとは限らない理由はレッスン4で説明します。
図からはわからないこと
タコグラムはスナップショットです。示すのは、一回の記録のあいだに間隔がどれだけ変化したか、それだけです。次のことは示しません。
- 理由。 睡眠、遅い食事、コーヒー、アルコール、前日のきついトレーニングは、どれもHRVを動かしえます。研究者が、検査の前に普段どおりの睡眠をとり、それ以外を避けるよう求めるのは、このためです。
- 自分の年齢の人にとって、その数値が良いかどうか。 人によって普段の範囲は大きく異なります。良いHRVの値とは?をご覧ください。
- 次に何が起こるか。 1回の測定値は、ある一瞬のものです。数日から数週間にわたるパターンのほうが、はるかに多くのことがわかります。
詳しい背景は、HRVとは?心拍変動を解説をご覧ください。次のレッスンのHRVを生む神経系のしくみでは、線を揺らす神経が登場します。