心拍変動(HRV)とは、ある心拍から次の心拍までの時間のばらつきで、ミリ秒で表します。安静時のHRVが高めなのは、通常、迷走神経が心臓を積極的に減速させ、調整していることを意味し、休息や回復のときによく見られる状態です。ただし、この数値が役に立つのは、自分のいつもの範囲と比べたときだけです。
心拍変動の意味
心臓は時計のように規則正しく打っているわけではありません。心拍数が60 bpmなら1秒に1拍と思えますが、拍と拍の間隔がちょうど1,000 msになることはほとんどありません。4拍が続くと、その間隔は980 ms、1,040 ms、1,010 msといった具合になることがあります。ある拍から次の拍までの時間をRR間隔といいます。この名前は、 心電図 心電図 皮膚に付けた電極で記録する、心臓の電気的な活動の記録。心電図に基づくRR間隔は、HRVを測るうえでの参照基準です。 心電図についてさらに詳しく (ECG)に現れる背の高い「R」波に由来します。HRVの標準では、正常な拍どうしの間隔であるNN間隔だけを使います(Task Force, 1996)。
HRVは、こうした間隔がどれだけ変化するかをまとめたものです。心拍数がどちらも60の2人でも、一方は間隔がほとんど動かず、もう一方は50 ms以上も上下に揺れていることがあります。心拍数は同じでも、HRVはまったく違います。
背の高いスパイク(R波のピーク)が4つある心電図の波形です。スパイクの間隔は0.98、1.06、0.95秒と示されており、同じ長さの間隔は2つとありません。
下のスライダーを動かすと、拍ごとの変化が大きくなったり小さくなったりしたときに、代表的な2つのHRV指標がどう動くかを確かめられます。
- RMSSD
- 30 ms
- SDNN
- 24 ms
- 心拍数
- 60 bpm
16回の心拍を示すインタラクティブなグラフです。スライダーで、拍と拍の間隔がどれだけ変わるかを調整します。動かすと、RMSSD、SDNN、心拍数の値が更新されます。
研究者はHRVを、隣り合う心拍の時間間隔の変化で、複数の調節系が同時に働いて生じるものと説明しています(Shaffer、McCraty、Zerr, 2014)。その言葉を借りれば、「健康な心臓はメトロノームではない」のです。
さらに詳しく 3つの間隔がHRVの値になるまで
先ほどの間隔、980 ms、1,040 ms、1,010 msで計算してみましょう。
RMSSDは、隣り合う間隔の差を見ます。差は+60 msと−30 msです。それぞれを2乗し(3,600と900)、2乗した値を平均し(2,250)、平方根をとります。RMSSDは約47 msです。
SDNN SDNN 記録に含まれるすべてのNN間隔の標準偏差で、単位はミリ秒です。全体の変動を表し、値は記録時間に強く左右されます。 SDNNについてさらに詳しく は、すべての間隔が平均のまわりにどれだけ散らばっているかを見ます。平均は1,010 msなので、各間隔は平均から−30 ms、+30 ms、0 msの位置にあります。この3つの間隔の標準偏差は30 msです。
同じ3つの間隔から、2つの異なる数値が出ました。実際の測定では何百もの拍を使いますが、考え方は同じです。アプリがどの指標を表示しているかが重要なのは、このためです。
HRVと心拍数の違い
心拍数は拍の数を数えます。HRVは拍と拍の間隔の変化を表します。
| 心拍数 | HRV | |
|---|---|---|
| 測るもの | 心臓が拍動する回数 | 拍と拍の間隔がどれだけ変化するか |
| 単位 | 1分あたりの心拍数(bpm) | ミリ秒(ms)、またはスコア |
| よく休めているときの通常の傾向 | 低い | 高い |
| すばやく動かすもの | 動き、ストレス、カフェイン、発熱 | 呼吸、ストレス、アルコール、病気、きついトレーニング |
両者は関連しています。心臓がゆっくり打つと、拍と拍の間に時間の余裕ができ、その時間が変動する余地も大きくなります。そのため、心拍数が下がるとHRVは上がる傾向があります。理由の一部は神経系にあり、一部は単純な算術にあります(Sacha, 2014)。休息のとれた朝は、通常、心拍数が低くHRVが高くなりますが、その一因がこれです。日々の目安として両者をどう比べるかは、HRVと安静時心拍数の比較をご覧ください。
HRVを調節するもの:自律神経系
心臓には独自のペースメーカーがあります。洞房結節という小さな細胞の集まりで、基本のリズムを刻んでいます(Shaffer、McCraty、Zerr, 2014)。自律神経系は、意識しなくても働く神経系の一部で、この心拍の速さを絶えず調整しています。
ブレーキとアクセル
副交感神経は、ブレーキのように働きます。心臓に向かう主な神経が迷走神経で、心臓を減速させます。交感神経は、アクセルのように働きます。安静時には両方が働いていますが、優位なのは迷走神経ブレーキです(Shaffer、McCraty、Zerr, 2014)。
2つの神経の作用は、現れる速さが異なります。迷走神経の作用は1秒未満で現れますが、交感神経の作用は強まるまでに5秒を超える時間がかかります(Shaffer、McCraty、Zerr, 2014)。ブレーキは隣り合う2拍の間隔を変えられるため、HRVのうち拍ごとの速い変化は、主に迷走神経活動を反映します(Task Force, 1996)。多くのウェアラブルデバイスが使うRMSSDが、時間領域で迷走神経が心臓に及ぼす影響を推定する主な指標として扱われているのは、このためです(ShafferとGinsberg, 2017)。
下の2つのスライダーを動かすと、それぞれの神経が心拍数とRMSSDに何をするかを確かめられます。
ブレーキとアクセル
測定ではなく、学習用のモデルです
- 心拍数
- 61 bpm
- RMSSD
- 55 ms
下のスライダーで設定します
よく休めた朝。 ぐっすり眠った後は、ブレーキが強く効き、アクセルは軽く踏まれている程度です。心拍数は低く、拍と拍の間隔が大きく変わるため、HRVは高くなります。
JavaScriptをオンにすると、スライダーとプリセットが使えます。
心臓は、2本のスライダーで決まる速さで拍動します。1本は迷走神経ブレーキ(副交感神経)、もう1本はアクセル(交感神経)です。心拍の列と、各拍の直前の間隔を結んだ線で、リズムがどれだけ整っているかがわかります。ブレーキを上げると、心拍がゆっくりになって間隔がよく変わるため、RMSSDが上がります。アクセルを上げると、心拍が速くなって間隔が整うため、RMSSDが下がります。ボタンを押すと、休息十分の朝、睡眠中、ストレス、きつい運動の後の数時間、体調を崩しかけたときの設定になり、それぞれに短い説明が付きます。
呼吸で心拍が変わる理由
ゆっくり息を吸うと、心臓の拍動が少し速くなります。息を吐くと遅くなります。このリズムは呼吸性洞性不整脈( RSA 呼吸性洞性不整脈(RSA) 息を吸うと心拍数が上がり、吐くと下がる正常な変化。迷走神経が生み出し、安静時の心拍変動(HRV)の大きな部分を占めます。 呼吸性洞性不整脈(RSA)についてさらに詳しく )と呼ばれ、正常なリズムです(Shaffer、McCraty、Zerr, 2014)。安静時のHRVを生む最も大きな要因の一つなので、測定するときは呼吸のしかたが影響します。
呼吸して、心拍を見る
測定ではなく、学習用のモデルです
- 心拍数
- 60 bpm
- RMSSD
- 46 ms
直近30秒
JavaScriptをオンにすると、この図が動きます。
呼吸の円は、息を吸うたびに大きくなり、吐くたびに小さくなります。その下の心拍の列では、拍の間隔が、吸う間(色付き)は詰まり、吐く間は広がります。列の下の線は各拍の直前の間隔を示し、吸う間は下がり、吐く間は上がります。スライダーで呼吸のペースを1分あたり4〜15回の範囲で設定でき、表示欄には、直近30秒の心拍数とRMSSDが表示されます。揺れは、1分あたり6回ほどの呼吸で最も大きくなります。
さらに詳しくは、HRVを生む神経系のしくみをご覧ください。
HRVが大切な理由
集団全体で見ると、HRVが低いことは、健康面の結果が悪いことと関連しています。心疾患が知られていない21,988人を対象とした8件の研究のメタアナリシスでは、HRVが低いことは、初めての心血管イベントのリスクが32〜45%高いことと関連していました(Hillebrandら, 2013)。HRVは年齢とともに低下し、身体活動量の多い人では少し高い傾向もあります(AltiniとPlews, 2021)。
これらは集団レベルの関連です。数値が低いからといって、その人個人にリスクがあるという意味ではありません。HRVは健康な人どうしでも大きく異なります。
この考え方は新しいものではありません。1960年代にはすでに、ソ連の宇宙医学の医師たちが、心拍と心拍の間隔を読み取って、宇宙飛行士がストレスにどう対処しているかを判断していました。詳しくはソ連の宇宙医学とHRVで説明しています。
日々の変化からわかること
HRVが最も役に立つのは、一人の人の変化を追うときです。起床時に測定したアプリ利用者28,175人を対象とした研究では、各人のいつもの値と比べて、HRVは大量の飲酒の後に約12%、病気のときに約10%低下しました(AltiniとPlews, 2021)。きついトレーニング、睡眠不足、ストレスでも動くことがあります。全体の一覧はHRVに影響するものをご覧ください。
HRVは高いほど常によいのですか?
自分のいつもの値より安静時のHRVが高いときは、通常、休息や回復のサインです。よくある例外が3つあります。
- 測定データの乱れ。 体の動きやセンサーの緩みで、存在しない拍が加わったり、実際の拍が抜けたりすることがあります。結果をゆがめるため、研究者はこうした誤りを見つけて修正することに多くの労力をかけています(Peltola, 2012)。理由のわからない急な跳ね上がりは、確かめたほうがよいでしょう。HRVが急に高くなるのはなぜ?をご覧ください。
- 不規則なリズム。 余分な拍動 異所性拍動 心臓の通常のペースメーカー以外の場所から始まり、たいてい早く来る拍動。よくあるものですが、取り除くか補正しない限り心拍変動(HRV)を乱します。 異所性拍動についてさらに詳しく (異所性拍動)や心房細動があると、迷走神経ブレーキとは無関係な理由で、拍と拍の間隔が不揃いになります(Peltola, 2012)。数値は高く見えることがありますが、その変動は健康のサインではありません。
- 他の人の数値。 友人より数値が高くても、それだけではほとんど何もわかりません。年齢、体力、遺伝子、機器のすべてが関わっています。オランダの成人約149,000人を対象とした研究では、遺伝子が人どうしのRMSSDの差の約18%を説明していました(Tegegneら, 2020)。
HRVは高いほどよいとは限らない理由のレッスンでは、それぞれの場合を取り上げています。HRVで心臓の問題はわかる?では、HRVが心臓について示せることと示せないことを説明しています。
HRVの測り方
どの方法でも、拍と拍の間の時間を記録します。その精度を決めるのはセンサーです。
| 方法 | 測る場所 | アプリが通常表示するもの |
|---|---|---|
| 胸部ストラップ(心電図) | 胸の電気信号 | RMSSD RMSSD 隣接するNN間隔の差の二乗平均平方根。1拍ごとの心拍間隔が次の拍とどれだけ違うかをミリ秒で表すHRV指標で、主に迷走神経の活動を反映します。 RMSSDについてさらに詳しく 。朝の測定で使うことが多い |
| リング、腕時計、バンド( PPG PPG 皮膚に光を当て、心拍ごとの血液の拍動を検出する光学的な方法。ほとんどの時計、リング、スマートフォンのカメラアプリが、これで心拍変動(HRV)を推定します。 PPGについてさらに詳しく ) | 光を使った、指や手首の脈拍 | 夜間のRMSSD、スコア、またはステータスのラベル |
| スマートフォンのカメラ(PPG) | 指先の脈拍 | 短い測定から得たRMSSD |
| 医療用の心電図またはホルター心電計 | 電気信号。医療機関で、または24時間 | 複数のHRV指標。医療者が読み取る |
光を使うセンサーが測るのは、心臓の電気信号ではなく脈拍です。そのため厳密には、 脈拍変動 脈拍変動(PRV) 脈拍と脈拍の間隔の変動を、時計、リング、スマートフォンのカメラが光学的に測ったもの。安静時は心拍変動(HRV)によく追従しますが、動いているときはずれていきます。 脈拍変動(PRV)についてさらに詳しく (PRV)を記録していることになります。安静時は心電図によるHRVとよく一致しますが、体を動かしたときや一部の種類のストレスがあるときは、両者がずれてきます(SchäferとVagedes, 2013)。
機器によって、報告する指標も違います。ウェアラブルデバイスの多くはRMSSDを表示します。Apple Watchが保存するのはSDNN、つまり正常な拍どうしの間隔の標準偏差です(Apple Developer Documentation)。同じ心拍から計算しても、2つの指標の数値は異なります。HRVの標準も、記録時間の異なる記録から得た値は比較すべきでないと警告しています(Task Force, 1996)。詳しくはHRVの測り方とRMSSD、SDNN、lnRMSSDの解説をご覧ください。
HRVの普通の値とは?
これが普通というHRVの値は、一つに決まっていません。HRVは年齢とともに低下し、数値は指標、機器、測るタイミングによっても変わります。たとえば、日中の短い心電図の測定値は、リングが出す夜間平均と直接には比較できません。
大規模な研究に基づく母集団の基準値は、年齢と性別で分けて、測り方を明記したうえで、年齢別の標準的なHRVに載せています。自分の数値が問題ないかどうかの簡潔な答えは、良いHRVの値とは?をご覧ください。
HRVを変えるもの
自分では変えられないものもあります。年齢、性別、遺伝子は、いつもの範囲を決める一因になります。いつもの範囲のなかで日ごとにHRVを動かすものは、次のとおりです。
- 睡眠。とくに短い夜や途切れがちな夜
- アルコール。翌朝のHRVを下げる傾向があります
- ストレス。精神的なものも身体的なものも含みます
- トレーニング。とくにきついセッション
- 病気。風邪や発熱を含みます
- カフェイン
- 月経周期。1か月のなかでHRVが少し変わります(AltiniとPlews, 2021)
数か月かけていつもの水準を上げたいときは、HRVを上げるには?をご覧ください。
HRVからはわからないこと
HRVは診断のための検査ではありません。1回の測定値だけでは、心臓が健康かどうかはわかりません。
- 1回の測定値はぶれが大きい。 日ごとの揺れは普通のことです。1週間以上の推移を見てください。
- 機器によって数値が違う。 同じ夜に2つの機器を着けると、数値が異なることがあります。機器は、その機器自身とだけ比べてください。
- 理由まではわからない。 数値が下がるのは、何かが体に負担をかけているということです。二日酔いなのか風邪なのかは、区別できません。
推移の読み方は、HRVのベースラインをつくり、推移を読むのレッスンで説明しています。
動悸、失神、胸の痛み、息切れがある場合は、HRVの値にかかわらず医師に相談してください。