レッスン13/20 · レベル3:HRVの活用

HRV、ストレス、呼吸

心拍変動(HRV)は、ストレスがかかっている間は下がる傾向があります。心臓にかかる迷走神経ブレーキがゆるむためです。1分あたり約6回のゆっくりした呼吸は、その場では逆に働き、呼吸のたびに心拍数が大きく揺れます。どちらの場合も、HRVが気分を測る道具になるわけではありません。呼吸の練習を、不安などの不調に対するケアの代わりに決してすべきではありません。

このページの内容 5セクション

要点

  • ストレスがかかっている間、HRVは下がる傾向があり、その後に回復します。
  • HRVが示すのは体にかかる負荷であり、気分ではありません。ストレスを、風邪やきつい運動と区別できません。
  • 1分あたり約6回のゆっくりした呼吸では、練習中のHRVがはるかに大きくなり、呼吸のピークがHFからLFに移ります。自分に合うペースは、1分あたり4.5〜6.5回の間にあります。
  • 毎日の測定は、呼吸の練習中に決して行わないでください。
  • ストレスや心配事にうまく対処できないときは、HRVの数値にかかわらず、医師かメンタルヘルスの専門家に相談してください。
このレッスンで身につくこと
  • レッスン3のブレーキとアクセルを使って、ストレスでHRVが下がりやすい理由を説明できます。
  • 研究者がHRVを見る三つの場面、つまり安静時、負荷がかかっている間、回復の間を説明できます。
  • 1分あたり約6回のゆっくりした呼吸の間にHRVに起きることと、HRVがHF帯域からLF帯域に移る理由を説明できます。
  • 共鳴ペースの見つけ方と、HRVバイオフィードバックの試験結果を説明できます。
  • 毎日の測定と混ぜずに、ゆっくりした呼吸を試せます。

心拍変動(HRV)は、ストレスがかかっている間は下がる傾向があります。心臓にかかる迷走神経ブレーキがゆるむためです。1分あたり約6回のゆっくりした呼吸は、その場では逆に働きます。呼吸のたびに心拍数が上下に揺れ、HRVが大きくなるのです。どちらの場合も、HRVで気分がわかるようになるわけではありません。

レッスン11と12では、アルコール、病気、トレーニングを扱いました。このレッスンでは、頭の中で抱える負荷と、1分以内にHRVを変えられる唯一の手段である呼吸を取り上げます。

ストレスはHRVにどう現れるか

レッスン3のブレーキとアクセルを思い出してください。締め切りや口論、怖い思いに直面すると、迷走神経ブレーキがゆるみます。心拍はわずかに速くなり、リズムはより一定になります。HRVは下がります。その場面が過ぎると、ブレーキが戻り、HRVも回復します。

37件の研究を調べた2018年のレビューでは、大半の研究で、ストレスに応じてHRVが変化していました(Kimら, 2018)。最も多かったのは、副交感神経の活動が低下するという結果です。

安静時、反応性、回復

研究者は、HRVを三つの段階で見ることがよくあります。三つのRと呼ばれることもあります(Labordeら, 2017)。

段階内容例
安静時(Resting)何かが起こる前の、安静時のHRV5分間静かに座る
反応性(Reactivity)安静時から負荷がかかったときまでの変化ストレスのかかる課題中のHRV
回復(Recovery)負荷が終わった後の変化その後の数分間のHRV

毎日の測定は、安静時の測定です。きつい会議の最中の反応性は見えず、測る時点までに残ったものしか見えません。

さらに詳しく 迷走神経のタンクと、心臓と脳のつながり

Laborde、Mosley、Mertgen(2018)は、三つのRを、迷走神経タンク理論と呼ぶ考え方にまとめました。迷走神経ブレーキを、自己調整の力をためたタンクだと考えてみてください。安静時については「高いほどよい」と予測しています。タンクがより満ちていることは、注意力、感情の制御、健康がより良好であることと関連するという考えですが、極端に高い水準には限界があるとも述べています。反応性は課題によって変わります。落ち着いて考える課題では、迷走神経活動の低下が小さいほうがよく、強い身体的負荷では、低下が大きいほうがよいと予測しています。回復については、迷走神経活動が安静時の水準にすばやく戻るほどよいと提案しています。

この理論は、Julian Thayerの神経内臓統合モデルに基づいています。このモデルは、心臓の迷走神経による制御を、注意と感情を操る脳の前方部分と結びつけます。Thayerらは、2012年に脳画像研究のメタアナリシスを行い、HRVが扁桃体や腹内側前頭前皮質などの領域の活動と関連していることを見いだしました。心理学者が安静時のHRVを、脳がどれだけうまく体を調整しているかの指標として扱う主な理由は、これです。ただし、これは集団どうしで見られる関連であり、特定の1人の心を調べる検査ではありません。

さらに詳しく HRVと炎症

迷走神経は、免疫系ともやりとりをしています。Williamsら(2019)は、HRVと血液中の炎症マーカーを調べたヒトの研究をまとめました。そのメタアナリシスには51件の研究が入っています。全体として、HRVが低いことは炎症マーカーが高いことと関連しており、SDNNとHFパワーで最も強い関連が見られました。これは集団での関連です。HRVを上げれば炎症が下がるという意味ではなく、HRVの測定値から個人の炎症を測ることもできません。

日常のストレスは見えにくい

フィンランドの研究では、99人の従業員を自宅で測定しました(Hynynenら, 2011)。ストレス症状を多く訴えた人は、起床後の短い臥位・立位テストで、HRVが低くなっていました。一方、夜間のHRVは、ストレスの少ない群と変わりませんでした。このため、測り方や測る時間帯によって、感じているストレスがHRVに現れることも現れないこともあります。

機器の「ストレススコア」は、この信号をもとにつくられています。計算式はメーカーごとに違うため、機器が違えばスコアも一致しないことがあります。推定値として扱ってください。

ゆっくりした呼吸で起きること

息を吸うと心拍が少し速くなり、吐くと遅くなることは、レッスン1で学びました。通常の呼吸数では、この揺れは小さいものです。

1分あたり約6回になると、呼吸、心拍数の揺れ、そして圧受容器反射と呼ばれる血圧の反射が、互いに強め合いはじめます。揺れは、安静時の何倍もの大きさになります。LehrerとGevirtz(2014)は、この研究をレビューして、ほとんどの人に起こり、最初の試行でも、1分以内に起こることが多いと述べています。最適なペースは人によって少し違います。二人の研究では、平均して1分あたり約5.5回でした。

下のモデルで、この考え方を確かめられます。1分あたり15回から始めて、6回までスライダーを下げ、拍と拍の間隔の揺れが大きくなる様子を見てください。

呼吸して、心拍を見る

測定ではなく、学習用のモデルです

心拍数
60 bpm
RMSSD
46 ms

直近30秒

JavaScriptをオンにすると、この図が動きます。

円に合わせて呼吸します。息を吸うと心拍が少し速くなり、吐くとゆっくりになります。このリズムはHRVの大きな部分を占め、1分あたり6回ほどのゆっくりした呼吸で最も大きくなります。簡単な学習用モデルによる図で、記録ではありません。

呼吸の円は、息を吸うたびに大きくなり、吐くたびに小さくなります。その下の心拍の列では、拍の間隔が、吸う間(色付き)は詰まり、吐く間は広がります。列の下の線は各拍の直前の間隔を示し、吸う間は下がり、吐く間は上がります。スライダーで呼吸のペースを1分あたり4〜15回の範囲で設定でき、表示欄には、直近30秒の心拍数とRMSSDが表示されます。揺れは、1分あたり6回ほどの呼吸で最も大きくなります。

次に、呼吸ガイドで試してみましょう。吸うのに約4秒、吐くのに約6秒かけます。深くではなく、やさしく呼吸してください。めまいやふらつきを感じたら、やめて普通に呼吸してください。

わかることと、わからないこと

ゆっくりした呼吸の間に出る非常に大きなHRVの数値は、主に、練習が効いていることを示しています。LehrerとGevirtzは、呼吸がゆっくりになるほど揺れが大きくなり、吐く息を長くすると、迷走神経活動が変わらなくても揺れが大きくなりうると述べています。ですから、練習中の数値は、安静時のHRVではありません。

では、練習の後はどうでしょうか。2022年のメタアナリシスは、ゆっくりした呼吸を調べた223件の研究をまとめました(Labordeら, 2022)。迷走神経によるHRVは、呼吸している間、1回のセッションの直後、そして数週間続けた練習プログラムの後で高くなっていました。長期の効果を調べた研究は、それより少数です。著者らは、ゆっくりした呼吸を、費用が低く、副作用が少ないと見込まれる方法と述べています。

ゆっくりした呼吸が、アプリで「ストレス」に見えることがある理由

呼吸のたびに起こる素早い上下の揺れは、呼吸性洞性不整脈( RSA 呼吸性洞性不整脈(RSA) 息を吸うと心拍数が上がり、吐くと下がる正常な変化。迷走神経が生み出し、安静時の心拍変動(HRV)の大きな部分を占めます。 呼吸性洞性不整脈(RSA)についてさらに詳しく )と呼ばれます。周波数解析では、HRVを速さで分けます。 HF HFパワー 心拍間隔の分散のうち、通常の呼吸の範囲である0.15〜0.40 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。呼吸が毎分9〜24回のとき、主に迷走神経活動を反映します。 HFパワーについてさらに詳しく (高周波)帯域は1分あたり約9〜24回の呼吸(0.15〜0.4 Hz)にあたり、 LF LFパワー 心拍間隔の分散のうち0.04〜0.15 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。7〜25秒ごとに繰り返すリズムです。かつては交感神経の活動と読まれましたが、現在は異論があります。 LFパワーについてさらに詳しく (低周波)帯域はそれより遅いリズムです(Labordeら, 2017)。呼吸が1分あたり9回より遅くなると、呼吸のピークはHFから外れてLFに入ります。迷走神経ブレーキはまったく変わっていないのに、HFパワーは下がり、LF/HF比は上がります。

下で呼吸数を15から6までスライドさせ、ピークが0.15 Hzの線を越える様子を見てください。

呼吸がスペクトルのどこに現れるか

記録ではなく、学習用のモデルです

呼吸のピーク
0.25 Hz
HFパワー
635 ms²
LFパワー
120 ms²
LF/HF
0.19
HF(正規化)
84 n.u.

1分あたり15回の呼吸では、呼吸のピークは0.25 HzでHF帯に入ります。HFパワーは635 ms²、LF/HFは0.19です。

JavaScriptをオンにするとスライダーを動かせます。

シミュレーションした5分間のHRVスペクトルです。呼吸数はスライダーで設定します。呼吸のピークは呼吸周波数の位置にあります。1分あたり9回より速い呼吸ではHF帯に入ります。それより遅くなると0.15 Hzの線を越えてLF帯に入るため、モデルの神経系は何も変わっていなくても、HFが下がってLF/HFが上がります。

0〜0.5 Hzの塗りつぶしのスペクトルで、VLF帯、LF帯、HF帯に色が付き、0.15 Hzの位置に縦線があります。1分あたり15回の呼吸では、最も高いピークはHF帯の中の0.25 Hzにあり、血圧のリズムによる小さなピークが0.1 Hzにあります。スライダーを1分あたり6回まで下げると、呼吸のピークが0.1 Hzに移って血圧のピークと重なり、ほかのすべてを大きく上回る一方、HF帯は空になります。表示欄には、ピーク周波数、LFとHFのパワー、LF/HF、正規化単位のHFが表示されます。

RMSSDは呼吸数の影響をより受けにくく、それがLabordeら(2017)がRMSSDを推奨する理由の一つです。毎日の測定では、助言は簡単です。普通に呼吸してください。呼吸をゆっくりにしたり速くしたりしないでください。測ろうとしている数値そのものが変わってしまいます。

自分の共鳴ペースを見つける

1分あたり6回は平均であり、決まりではありません。ShafferとMeehan(2020)は、成人の共鳴ペースを1分あたり4.5〜6.5回のどこかとしています。実践ガイドには、臨床家が共鳴ペースを探す手順が書かれています。

  1. まず、1分あたり5.5〜6回のゆっくりした呼吸を練習してください。
  2. 1分あたり6.5、6、5.5、5、4.5回の各ペースで2分ずつ呼吸し、間に2分の休息を挟んでください。吸う息より吐く息を長くすることが勧められています。
  3. ペースを比べてください。最も強い手がかりは、心拍数と呼吸がぴったり同期して動くことです。次に、心拍数の最高と最低の差で表した揺れの大きさ、LFパワー、波形のなめらかさを見ます。著者らは、これらの重みづけが検証されていないことを注記しています。
  4. 最もよい結果が4.5回か6.5回だった場合は、その先も半段階分試してください。

このサイトの胸部ストラップでHRVテストは、Bluetooth接続の胸部ストラップを使って、この手順の短縮版を行います。心拍数の揺れの大きさで、各ペースに順位をつけます。

試験でわかっていること

HRVバイオフィードバックとは、共鳴ペースで呼吸しながら、心拍数の揺れを画面で見るものです。2017年のメタアナリシスは、24件の研究、484人を対象とし、自己申告のストレスと不安が大きく下がることと関連していると報告しました(Goesslら, 2017)。より規模の大きい2020年のレビューは、58件のランダム化比較試験を取り上げています(Lehrerら, 2020)。全体では、小さいものから中程度の効果が見られました。効果が最も大きかったのは不安、抑うつ、怒り、スポーツや芸術のパフォーマンスで、最も小さかったのは心的外傷後ストレス障害(PTSD)、睡眠、生活の質でした。いずれも、根拠になった試験はわずかです。効果は、ほかの積極的な治療と比べるより、無治療と比べたときのほうが大きく、著者らは、特定の用途についてさらなる研究が必要だとしています。

どれくらい練習すればよいのでしょうか。試験によって違います。LehrerとGevirtz(2014)は、自宅で1日2回、約3か月続ける練習プログラムを紹介しており、その後、安静時の圧受容器反射のゲインが上がっていました。どんな計画も実験として扱い、自分の気分と、数週間にわたる7日間の平均で判断してください。

データを乱さずに呼吸を取り入れる

  1. 測定の手順を固定してください。 毎日の測定は、いつもの時間に、いつもの方法で行い、呼吸のセッションの最中や直後には決して行わないでください。
  2. 練習は別の時間に行ってください。 寝る前の数分間や、忙しい午後の合間が向いています。
  3. 数週間かけて判断してください。 数週間練習したら、7日間の平均を、その前の数週間と比べてください。長期の練習を調べた研究は、1回のセッションを調べた研究より少ないので、大きな跳ね上がりは期待しないでください。呼吸法でHRVは上がる?もご覧ください。
  4. 気分に目を向けてください。 数値がどうなっても、落ち着きを感じられるなら、それだけでよい結果です。

誰かに相談するとき

ゆっくりした呼吸は、大半の人にとってリスクの低いものです。2022年のメタアナリシスでは、副作用は少ないと見込まれていました。心臓や肺の病気がある場合や、呼吸法でめまいや不安を感じる場合は、先に医師に相談してください。呼吸の練習は不安の治療を支えることがありますが、治療の代わりにすべきではありません。ストレスや心配事、気分の落ち込みにうまく対処できないとき、自分で試したことが助けにならないときは、HRVの数値にかかわらず、医師かメンタルヘルスの専門家に相談してください。これは英国の国民保健サービス(NHS)のストレスに関する助言(英語)に沿っています。さらに詳しくは、不安でHRVは下がる?をご覧ください。

次のHRVの限界、誤解、警告サインでは、HRVにできないことと、どんな数値よりも症状を重く見るべき場面を学びます。

やってみましょう

別々の三日間、毎日の測定とは十分に離れた時間に、このレッスンの呼吸ガイドを使って5分間ゆっくり呼吸してください。前後に、どれくらい落ち着いているかを1〜10で採点してください。毎日の測定はいつもどおり続け、数週間のうちに7日間の平均が動くかどうかを見てください。

理解度チェック

5問中3問(60%)以上正解すると合格となり、このレッスンに完了のチェックが付きます。何度でも挑戦できます。選択肢の順番は毎回入れ替わり、最高得点が記録されます。

以下の問題はJavaScriptがなくても読めます。答え合わせにはJavaScriptが必要です。

問題1 ストレスで通常HRVが下がるのはなぜですか?
問題2 研究者の用語で、HRVの「反応性」とは何ですか?
問題3 1分あたり約6回のゆっくりした呼吸の間、HRVの測定値が普段の三倍になりました。これは何を示していますか?
問題4 アプリに、今日は高いストレススコアが表示されました。これからわかることは何ですか?
問題5 ゆっくりした呼吸も練習している場合、毎日のHRV測定はいつ行いますか?

  1. レベル1バッジ: レッスン0/5
  2. レベル2バッジ: レッスン0/5
  3. レベル3バッジ: レッスン0/5
  4. レベル4バッジ: レッスン0/5
レッスン0/20 · 現在レベル1/4 修了証の取得方法
コースの全体像

出典

  1. A Practical Guide to Resonance Frequency Assessment for Heart Rate Variability Biofeedback Frontiers in Neuroscience, 2020
  2. Heart Rate Variability Biofeedback Improves Emotional and Physical Health and Performance: A Systematic Review and Meta Analysis Applied Psychophysiology and Biofeedback, 2020
  3. Vagal Tank Theory: The Three Rs of Cardiac Vagal Control Functioning – Resting, Reactivity, and Recovery Frontiers in Neuroscience, 2018
  4. A meta-analysis of heart rate variability and neuroimaging studies: implications for heart rate variability as a marker of stress and health Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 2012
  5. Heart rate variability and inflammation: A meta-analysis of human studies Brain, Behavior, and Immunity, 2019
  6. Heart rate variability and cardiac vagal tone in psychophysiological research: recommendations for experiment planning, data analysis, and data reporting Frontiers in Psychology, 2017
  7. Stress and Heart Rate Variability: A Meta-Analysis and Review of the Literature Psychiatry Investigation, 2018
  8. The incidence of stress symptoms and heart rate variability during sleep and orthostatic test European Journal of Applied Physiology, 2011
  9. Heart rate variability biofeedback: how and why does it work? Frontiers in Psychology, 2014
  10. Effects of voluntary slow breathing on heart rate and heart rate variability: A systematic review and a meta-analysis Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 2022
  11. The effect of heart rate variability biofeedback training on stress and anxiety: a meta-analysis Psychological Medicine, 2017
  12. Get help with stress NHS, 2026