ストレスは、続いている間、通常は心拍変動(HRV)を下げます。心拍を遅くする神経系の部分の働きが弱まるためです。ただしHRVが示すのは、体に何らかの負荷がかかっているということだけです。何が原因なのか、どのくらいストレスを感じているのかまではわかりません。
ストレスで心拍はどう変わるか
心臓は、神経系の二つの系統によって調節されています。副交感神経は、主に迷走神経を通じて心拍を遅くし、拍と拍の間隔がより大きく変動できるようにします。交感神経は「 闘争・逃走反応 交感神経系 自律神経系のうち「闘争・逃走反応」を担う系統です。心臓を速く、強く拍動させますが、作用が遅すぎて、拍ごとの心拍変動(HRV)を左右することはできません。 交感神経系についてさらに詳しく 」を担う側で、心拍を速くします。RMSSDや高周波パワーなどの短時間のHRV指標は、主に副交感神経の側を反映します(ShafferとGinsberg, 2017)。この点は、レッスンHRVを生む神経系のしくみで詳しく説明しています。
脅威、締め切り、難しい話し合いに直面すると、副交感神経のブレーキがゆるみます。心拍がわずかに速くなり、拍ごとの変動が小さくなるため、HRVは下がります。ストレスが過ぎるとブレーキが戻り、HRVは回復します。
2018年に発表された37件の研究のレビューでは、その大半で、ストレスに応じてHRVが変化していました(Kimら, 2018)。最も多かった所見は副交感神経の活動の低下で、高周波のHRVの低下として現れました。同じレビューの脳画像研究では、状況の脅威の度合いを判断するのを助ける脳の前方の領域と、HRVとの関連が示唆されていました。
研究でわかっていること
実験室での短時間のストレス
デンマークの研究では、女性12人が標準的なコンピューター作業を二回行いました。一回は精神的なストレス要因を加え、もう一回は加えませんでした(Hjortskovら, 2004)。ストレスのかかるセッションでは、高周波のHRVが下がりました。その後の8分間の安静で、HRVは一部回復しましたが、血圧は安静時の水準には戻っていませんでした。女性たち自身によるストレスの評価は、HRVには差があったにもかかわらず、セッション間でほとんど違いませんでした。
日常のストレス
現実の生活はもっと複雑です。フィンランドの研究では、従業員99人(男性59人、女性40人、平均年齢40歳)を自宅で測定しました(Hynynenら, 2011)。一晩の記録の前に、各自がストレスの質問票に記入しました。研究者らは、夜間の心拍と、起床後の横になってから立ち上がる短いテストでの心拍を記録しました。
ストレスの症状が多いと答えた人は、朝のテストでHRVが低く、その差は横になった状態でおよそ20〜50%、立った状態でおよそ30〜75%でした。ところが、夜間のHRVはストレスの少ないグループと変わらず、夜間の尿で測ったストレスホルモンにも差がありませんでした。ストレスの多いグループでは、夜から朝のテストにかけてのHRVの低下が、より大きくなっていました。
HRVでわからないこと
- 原因。 飲酒、睡眠不足、かぜ、きつい運動も、ストレスの多い日と同じようにHRVを下げることがあります。約900万件の朝の測定値を調べた研究では、飲酒、きつい練習、病気のあとにHRVが下がっており、著者らはHRVを、ストレスに対して感度は高いが、特異的ではない指標だとしています(AltiniとPlews, 2021)。数値は、その違いを区別しません。
- 良いストレスと悪いストレスの区別。 きつい練習期間も、仕事上の危機も、どちらもHRVを押し下げることがあります。
- 自分がどう感じているか。 上の二つの研究が示したように、HRVと自分のストレスの感覚は、いつも一致するとは限りません。
- 診断。 HRVでは、不安障害、バーンアウト(燃え尽き症候群)、うつ病は診断できません。不安については不安でHRVは下がる?を、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、バーンアウト、慢性疲労での研究結果についてはPTSD、バーンアウト、ME/CFSでHRVは下がる?をご覧ください。
多くのデバイスは、心拍数とHRVをストレススコアに変換します。計算式はメーカーごとに異なるため、あるデバイスの「高ストレス」が、別のデバイスと一致するとは限りません。
自分のデータでストレスを読むには
- ストレスの多かった日を記録する。 締め切り、対立、移動、悪い知らせを、アプリのタグやメモに記録します。数週間たつと、そうした日に数値が動くかどうかがわかります。
- ベースラインと比べる。 低い日が一日あるだけでは、ほとんど意味がありません。HRVが普段の範囲を下回ったまま一週間以上続くほうが、より多くのことがわかります。ベースラインの設定方法は、レッスンHRVのベースラインをつくり、推移を読むで説明しています。
- よくある原因を除く。 ストレスのせいにする前に、飲酒、夕方以降のカフェイン、睡眠不足、病気の始まりがないかを確認します。
- 毎回同じ方法で測る。 ストレスのかかった状況で測った値は、落ち着いて座って測った値より低くなる傾向があります。その場で測るなら、毎回同じ時刻、同じ姿勢で測ります。
- 自分の感覚と合わせて考える。 HRVが低く、自分でも余裕がないと感じるなら、休んだり、ペースを落としたりする理由になります。HRVが低くても調子が良いなら、偶然のばらつきかもしれません。
ゆっくりした呼吸を試したい場合は、下の呼吸ガイドが1分あたり六回のペースを刻みます。呼吸のエクササイズがHRVにできること、できないことは、呼吸法でHRVは上がる?で説明しています。
誰かに相談するとき
ストレス、心配、気分の落ち込みが、睡眠、仕事、人間関係に二週間を超えて影響している場合は、医師やメンタルヘルスの専門家に相談してください。HRVがどうであっても、この助言は変わりません。