きつい練習をすると、心拍変動(HRV)は一、二日下がり、練習がきついほど低い状態が長く続きます。数週間のスパンでは、HRVが安定している、または上がっていることが、順調な適応と並んで見られる傾向があります。そのため、朝の測定値を見て、追い込む日と楽にする日を決める選手がいます。
練習がHRVに与える影響
運動中は、心臓にかかっている副交感神経のブレーキを神経系が緩め、心拍数が上がれるようにします。運動をやめると、そのブレーキが少しずつ戻ります。HRVは、どこまで戻ったかを示します。
2013年のレビューは、有酸素運動のあとのアスリートと健康な人を調べた研究をまとめました(Stanleyら, 2013)。心臓の副交感神経の働きが完全に戻るまでにかかった時間は、次のとおりです。
| 練習 | HRVが回復するまでの時間 |
|---|---|
| 低強度 | 最長24時間 |
| 閾値付近(きついが続けられる強度) | 24〜48時間 |
| 高強度 | 少なくとも48時間 |
回復の時間は、練習の長さよりも強度のほうが影響しているようでした。体力のある人ほど早く回復しました。この数字は有酸素運動のものです。筋力トレーニングのデータはもっと限られています。
下の曲線は、この時間経過に沿っています。練習の種類と体力を選んで、モデルの上で朝のRMSSDが低いままになる期間を見てください。
トレーニングの後
測定ではなく、学習用のモデルです
セッション
体力
- 最低値
- 35 ms
- 範囲に戻る時間
- 36 時間
閾値強度、定期的にトレーニングしている:このモデルではRMSSDが35 msまで下がり、約36時間後に普段の範囲に戻ります。この曲線のもとになったレビューでは、この種のセッションの後、完全に回復するまでに24〜48時間かかるとされています。
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トレーニング後の3日間のRMSSDを示す折れ線グラフです。線は、50 msの破線のベースラインより下から始まり、最初は急に上がって、普段の範囲を示す色付きの帯の中で平らになります。ボタンで、セッション(楽な強度、閾値強度、きついインターバル)と体力のレベル(トレーニング初心者、定期的にトレーニングしている、体力が高い)を選べます。表示欄には、曲線上の最も低いRMSSDと、普段の範囲に戻る時間が表示されます。
きつい練習の翌朝に低い値が出ているなら、きつい運動のあとHRVが低いのはなぜ?を参照してください。レースのあとについては、マラソン後、HRVが戻るまでどのくらい?を参照してください。
HIIT、ゾーン2、筋力トレーニング:翌朝の状態
レビューが示す時間は強度別なので、楽なゾーン2のライドは最初の行に、インターバル練習は最後の行に入ります。筋力トレーニングは別に調べられています。鍛えている男性10人がスクワット、ベンチプレス、ラットプルダウンを限界まで六セット行った研究では、朝のlnRMSSDは24時間後までに運動前の値に戻りましたが、ジャンプのパワーとバーの速度は戻るまで48時間かかり、筋肉痛は48時間後もまだ強いままでした(Flattら, 2019)。つまり、ウエイトトレーニングのあとは筋肉よりHRVのほうが先に回復します。値が普段どおりでも、脚の準備ができているとは限りません。
一週間の過負荷では、二種類のトレーニングは別の方向に作用します。十分に鍛えた選手37人が、筋力か高強度インターバルのどちらかで六日間の過負荷を行い、毎日、横になった状態と立った状態で測定した研究があります。筋力ブロックでは、横になったときの心拍数が上がってlnRMSSDが下がり、インターバルブロックでは、立ったときの心拍数が下がってlnRMSSDが上がりました。いずれも小さな変化で、四日間の回復の間に元に戻りました。どちらのパターンも選手のパフォーマンスの変化とはあまり一致せず、単独の日の値より、2〜4日間の移動平均のほうが安定した推定値になりました(Schneiderら, 2019)。
練習中に起こること
運動中のHRVは、強度が中程度から高強度に達するまで強度とともに下がり、それ以上きつくなってもあまり変わりません。2017年の運動研究のレビューは、運動中とその後の一時間は強度が主な要因であり、きつい練習ほど戻りが遅いと報告しています。長い練習でHRVが下がったのは、強度が低〜中程度で、心拍数がじわじわ上がっていく場合だけで、練習時間が長いと回復が遅れるという根拠は一致していませんでした(Michaelら, 2017)。時計に表示される「運動中のHRV」があまり役に立たないのはこのためです。楽なペースより上では、数値は下限付近に張りついています。
筋力・パワー系のアスリート
ウエイトリフターは、同じ年齢の持久系アスリートより安静時HRVが低く出ることが多く、何か問題があるのかと心配しがちです。必ずしも問題があるわけではありません。安静時HRVを上げるという根拠が最もはっきりしているのは有酸素トレーニングで、筋力トレーニングの根拠はそれより乏しく、上の過負荷の研究でも、筋力ブロックは横になったときのlnRMSSDを下げましたが、インターバルブロックは下げませんでした。筋力系の選手にとって役立つ比較は、トレーニング期間を通した自分自身のベースラインとの比較です。きつい練習のあとに意味を持つ指標は、バーの速度、筋肉痛、睡眠で、これらは心臓より一、二日遅れて変わります(Flattら, 2019)。
テーパリング
レース前に負荷を落とすと、通常はHRVが戻って上がり、安静時心拍数が下がります。これは求めている回復です。ただし、きつすぎたトレーニング期のあとにも上がることがあります。ランナーとトライアスリート15人を、軽い練習の一週間、きつい練習の二週間、10日間のテーパリングにわたって追った研究では、立位のRMSSDは、5 kmのタイムが悪化したきつい練習期に上がり、タイムが良くなったテーパリングの間も、より高い状態のままでした(Bellengerら, 2016)。2021年のメタアナリシスでは、機能的オーバーリーチングの状態の選手で、週ごとの平均HRVは上がっていましたが、単独の測定値では見えませんでした(Manresa-Rocamoraら, 2021)。同じ高い値が「回復している」にも「やりすぎ」にもなりえて、見分けられるのは状況だけです。HRVが急に普段より高いのはなぜ?を参照してください。体力のきわめて高い選手で数値が低い場合は、別のページがあります。とても鍛えているのにHRVが低いのはなぜ?
HRVに基づくトレーニング
HRVに基づくトレーニングでは、HRVが普段の範囲にある日にきつい練習をし、下がっている日は楽にするか休みます。
この方法を決まった計画と比べた試験が二件あります。
- フィンランド、2007年。 中程度の体力の男性26人を三群に分け、四週間追いました(Kiviniemiら, 2007)。八人は決まった計画に従い、九人は朝のHRVを見てきつい日と楽な日を選び、九人はトレーニングをしませんでした。有酸素能力の指標である最高酸素摂取量は、HRV群で56から60 ml/kg/minに上がり、決まった計画の群では有意に変わりませんでしたが、二群の向上幅の差も有意ではありませんでした。トレーニングをした群はどちらもトレッドミルのテストで速くなり、向上はHRV群のほうが大きく、0.9 km/hに対して0.5 km/hでした。
- フィンランド、2016年。 趣味で走る人40人が八週間トレーニングしました(Vesterinenら, 2016)。HRVに基づく群は、中強度以上の練習が少なかった(約13回に対して約18回)のに、3,000 mのタイムが2.1%向上しました。決まった計画の群の1.1%の変化は有意ではありませんでした。群間の差は小さいものでした。有酸素能力はどちらの群でも上がりました。
どちらの試験も小規模で期間が短く、対象は趣味で運動する人か中程度の体力の人でした。HRVに基づくトレーニングは、決まった計画と少なくとも同じくらいうまくいくことがうかがえ、2016年の試験では、きつい日を減らしながら同じ結果でした。ただし、誰にとってもより優れていると証明するものではありません。
さらに詳しく 試験は「低い」をどう決めたか
どちらの試験も、その朝の値を、固定の数字ではなく、本人の直近の値と比べました。
2007年の試験では、10日間の平均から標準偏差一つ分を引いた値を下回るか、二日続けて下がり傾向にあれば、楽な日か休みにしました。そうでなければ、きつい練習をしました。2016年の試験では、ランナーごとに「最小有意変化量(SWC)」の範囲を決めました。値がその範囲の内側にあれば中強度以上の練習が可能で、外側にあれば楽な練習にしました。
どちらの基準も、毎朝同じ方法で測っていて初めて成り立ちます。
数週間でHRVからわかること、わからないこと
2016年の、24件の研究を統合したレビューは、持久系アスリートのHRVがトレーニング期にどう変わるかを調べました(Bellengerら, 2016)。トレーニングで選手が速くなったときは、安静時RMSSDがわずかに上がる傾向がありました。選手がオーバーリーチング、つまりパフォーマンスが落ちるほどきつく練習した状態になったときは、安静時HRVはほとんど変わりませんでした。そのため、HRVが普通に見えても、オーバーリーチングを除外できません。
エリートアスリートでは、さらに整理しにくくなります。Plewsらのレビューは、HRVの上昇と低下のどちらも、適応が良くないことと並んで見られた研究があることを示しました(Plewsら, 2013)。体力の非常に高い人では、安静時心拍数が下がっていても、HRVが低下することがあります。著者らは、単独の日の値に反応するのではなく測定値を平均すること、そして数か月にわたる選手本人のパターンを追うことをすすめています。
自分のトレーニングでHRVを使うには
- 毎日同じ方法で測ります。 同じ時刻、同じ姿勢で、コーヒーや練習の前に測ります。ウェアラブルデバイスの夜間の測定値や、起床時の短い測定を使う人が多くいます。
- 単独の日ではなく、平均を見ます。 数日間の平均を、自分の普段の範囲と比べます。範囲の決め方は、レッスンHRVのベースラインをつくり、推移を読むで説明しています。
- 「低い」の線は、必要になる前に決めておきます。 試験では二つの基準が使われました。2007年の試験では、朝の値が自分の10日間平均から標準偏差一つ分を引いた値を下回るか、二日続けて下がったときを「低い」としました。2016年の試験では、ランナーごとに自分のベースラインの周りに「最小有意変化量(SWC)」の範囲を決め、7日間の平均がその外に出たら楽な日にしました。どちらかを選んで、続けてください。レッスン12「トレーニングと回復のためのHRV」で、基準の使い方を順に説明しています。
- 低い日は問いとして扱います。 睡眠が悪かった、飲酒した、移動した、前日にきつい練習をした、といった心当たりはありませんか。きつい練習のあとに一回低い値が出るのは、想定の範囲内です。低い日が数日続いたら、いつもより楽な日を一、二日はさみ、何が変わったかを調べるとよいでしょう。
- 安静時心拍数も見ます。 大規模なアプリの研究では、きついトレーニングのあと、大量に飲酒したあと、病気のときに、朝のHRVが下がり、安静時心拍数が上がりました。トレーニングのあとは、心拍数よりHRVのほうが大きく変わりました(AltiniとPlews, 2021)。二つが一緒に動くのを確かめるほうが、一つの数字だけより多くのことがわかります。HRVと安静時心拍数、どちらが重要?を参照してください。
- ほかの指標も手放しません。 パフォーマンス、やる気、筋肉痛、睡眠も引き続き大切です。HRVは、それらと並ぶもう一つの指標です。
その日の判断については、HRVが低いとき、トレーニングすべき?を読んでください。