体調を崩しかけると、心拍変動(HRV)は通常下がり、安静時心拍数は上がります。自覚症状が出る数日前に変わることもあります。HRVでは何が起きているのか、どのくらい重いのかはわかりません。そのため、次にどうするかは数値ではなく症状で決めてください。
病気でHRVが下がる理由
感染症と闘うのは、体にとって大きな負担です。発熱は心拍数を押し上げます。後述するFitbitの研究者らは、体温が1 °C上がるごとに心拍数が平均で1分あたり約8.5拍上がるという報告を引用しています(Natarajanら, 2020)。短時間のHRVは主に副交感神経の働きを反映します。副交感神経は心拍を遅くし、拍ごとのリズムが変動できるようにします(ShafferとGinsberg, 2017)。副交感神経の影響が弱まると、HRVは下がります。
この傾向は特定の病気に限りません。アプリの研究では、約900万件の朝の測定値を調べたところ、病気だと答えた日はそうでない日に比べ、HRVが約10%低く、安静時心拍数が約6%高くなっていました(AltiniとPlews, 2021)。
心拍を遅くする神経と免疫系の間には、直接のつながりもあります。迷走神経は副交感神経の主要な神経で、炎症を抑えるのに役立つ信号も伝えます。研究者はこのつながりを「炎症反射」と呼んでいます(PavlovとTracey, 2012)。
ウェアラブル研究でわかったこと
日常的な病気のあいだのHRVを調べた最大規模の研究のいくつかは、すでに多くの人がデバイスを身につけていたCOVID-19の流行中に行われました。
Fitbitの大規模研究。 Fitbitに所属する研究者らが、PCR検査でCOVID-19と確認された2,745人のデータを分析しました(Natarajanら, 2020)。研究者らは毎晩、午前0時から午前7時までのRMSSDを測定しました。症状が出始めるころに呼吸数と心拍数が上がり、RMSSDが下がりました。こうした変化は症状が出る数日前から始まることがありました。変化がもっとも大きく、元に戻るまでにもっとも時間がかかったのは呼吸数です。これらの信号をもとにしたモデルは、ある日に病気かどうかを中程度の精度で予測しましたが、信頼できる検査には遠く及びませんでした。その後の数週間は、心拍数が平均して普段より低くなり、約21日目までに普段の水準に戻りました。この間、HRVは一時期、普段よりわずかに高い状態でした。
Apple Watchを使った医療従事者の研究。 ニューヨークでの研究は、Apple Watchを着け、毎日症状の調査に答えた病院職員を追跡しました(Hirtenら, 2021)。HRVの別の指標であるSDNNの一日の中での変動パターンは、COVID-19と診断される前の一週間と後の一週間、そして症状を報告した初日に変化しました。
どちらの研究も、集団の平均的な変化を報告しています。そのため、自分の数値がどう動くかまではわかりません。きつい運動や数杯のお酒でも、似たパターンが出ることがあります。
さらに詳しく COVID-19後のHRV
ドイツの研究では、新型コロナウイルス感染症の罹患後症状がある103人について、感染から約252日後にホルター心電計(携帯型の心電図)で24時間のHRVを測定しました(Moorenら, 2023)。健康な90人と比べると、年齢と性別で調整したうえで、夜間に交感神経寄りへの偏りと副交感神経の活動の低下がみられました。感染中に入院していた人は、偏りがもっとも大きくなっていました。
これは、すでに症状が長引いている人たちの集団比較です。感染後にHRVが低いことが新型コロナ後遺症(long COVID)を示唆するという意味ではなく、HRVで後遺症を診断することもできません。著者らは、HRVが回復の経過を反映するかどうかを調べるために、より長期の研究が必要だとしています。
病気のときや回復期に、HRVが上がることがあるのはなぜ?
病気のときにHRVが必ず下がるわけではありません。病気の最中や直後に、普段の範囲を上回る測定値が続く人もいます。Fitbitの研究で、症状が出たあとの平均的なパターンは、その後の数週間は心拍数が普段より低く、HRVは一時期、普段よりわずかに高く、どちらも約21日目までに落ち着くというものでした(Natarajanら, 2020)。
体調が悪いときに測定値が高く出る理由は、二つ考えられます。一つ目は休息です。病気の週は、練習も飲酒もなく、睡眠が増えるのが普通です。これらはそれだけでもHRVを上げるため、熱が下がると、数値が普段の水準を超えて跳ね返ることがあります。二つ目は測定そのものです。HRVの計算式は、すべての拍が、ふだん心臓のペースメーカーとして働く部位から出ていることを前提にしています。発熱や脱水に伴って出ることがある余分な拍や不規則な拍は間隔をふぞろいにし、計算上はそれがより大きな変動として数えられます。二つを見分ける方法は、HRVが急に普段より高いのはなぜ?で説明しています。ワクチンでも、病気のときよりずっと小さな同様の反応が起きます。ワクチンでHRVは下がる?いつまで?をご覧ください。
アレルギーの季節
花粉症はHRVに表れるのかという質問が読者から寄せられますが、正直なところ、ほとんど誰も調べていません。見つかった小規模な研究は一つだけで、アレルギー性鼻炎の成人11人と健康な対照群13人を、短時間の心電図記録で比べたものでした。横になった状態では、どのHRV指標にも違いはありませんでした。座った状態では、患者のほうが心拍の間隔が長く、 低周波パワー LFパワー 心拍間隔の分散のうち0.04〜0.15 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。7〜25秒ごとに繰り返すリズムです。かつては交感神経の活動と読まれましたが、現在は異論があります。 LFパワーについてさらに詳しく (LF)の割合が低くなっていました。著者らはこれを、姿勢の変化に対する交感神経の調節がより弱いことの表れと解釈しています(Lanら, 2013)。この情報だけでは、花粉の季節が夜間の数値にどう影響するかは言えません。影響の経路としては、鼻づまりによる呼吸のしづらさ、睡眠の中断、眠気を起こす抗ヒスタミン薬のほうが可能性が高いです。自分のパターンを知るには、花粉の多い日を記録しておくしかありません。
体調が悪いときのデータの見方
- 複数の信号を合わせて見る。 HRVの低下だけより、安静時心拍数や呼吸数の上昇も重なっているほうが、研究で見られたパターンに近くなります。HRVと安静時心拍数、どちらが重要?を参照してください。
- ベースラインと比べる。 飲酒やきつい練習といったほかの原因がないのに、普段の範囲を大きく下回る測定値が二、三晩続くなら、気にとめておいたほうがよいでしょう。その範囲の見つけ方は、レッスンHRVのベースラインをつくり、推移を読むで説明しています。
- 体調の悪い日を記録する。 症状、発熱、服用した薬を記録します。自分の数値が落ち着くまでにかかる時間がわかり、あとでベースラインが体調の悪い日に引きずられるのも防げます。
- 戻りはゆっくりだと考える。 感染症のあと、数値が戻るまでに数日から数週間かかることがあります。ベースラインに戻ったというだけでは、完全に回復したとは限りません。
- HRVで病気かどうかを判断しない。 HRVでどこまで早く気づけるかは、HRVは体調を崩す前に教えてくれる?で詳しく説明しています。
医師に相談するとき
ウェアラブルの表示にかかわらず、自分の感覚と症状で判断してください。息苦しさ、胸の痛み、意識の混乱、下がらない高熱がある場合や、症状が良くなるどころか悪化していく場合は、医療機関を受診してください。感染症のあと、疲労感、速い心拍や不規則な心拍、立ち上がったときのめまい、息切れが数週間続く場合も、医師に相談してください。
心疾患やそのほかの持病がある場合は、体調が悪いときのウェアラブルのデータの扱い方を医師に確認してください。はっきりした理由がないのにHRVが長く低いままの場合も、症状とあわせて医師に伝えるとよいでしょう。よくある原因は、HRVが低いとはどういうこと?で説明しています。