HRVと長寿:死亡率の研究が示すこと

数十件の研究で、心拍変動(HRV)が低い人は高い人に比べて、平均して早く亡くなり、心筋梗塞や脳卒中も多くなっていました。これは医療用の心電図で測った、集団どうしの関連です。寿命を予測するものではなく、アプリに表示される数値は心臓病の検査でもありません。

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要点

  • 2022年のメタアナリシスでは、5分間のRMSSDが下位四分の一だった人は、それ以外の人に比べて、追跡期間中の死亡のハザードが56%高くなっていました。
  • これは集団についての相対リスクです。個人の心臓病の絶対リスクは、HRVではなく年齢、性別、喫煙、血圧、コレステロールから医師が推定します。
  • 研究で使われたのは、医療機関や研究施設での心電図記録です。そのため、研究のカットオフ値は、時計やリングの測定値には当てはまりません。
  • これらの研究はどれも、HRVを上げると長生きできるかどうかを調べていません。
  • アプリの健康年齢スコアは、同じ年齢の人と比べたものです。医学的検査ではなく、寿命について確かなことは示しません。

大規模な研究では、心拍変動(HRV)が低い人は、高い人に比べて、平均して早く亡くなり、心筋梗塞や脳卒中も多くなっていました。これは医療用の心電図( ECG 心電図 皮膚に付けた電極で記録する、心臓の電気的な活動の記録。心電図に基づくRR間隔は、HRVを測るうえでの参照基準です。 心電図についてさらに詳しく )で測った、集団どうしの関連です。寿命を予測するものではなく、アプリに表示されるHRVの数値は心臓病の検査でもありません。

死亡率の研究は何を測ったのか

この分野の研究は、ほとんどが数時間にわたって身につけた心電図(心臓の電気的な記録)を使っています。研究者は、欧州心臓病学会と北米ペーシング・電気生理学会のタスクフォース(Task Force)が1996年に定めた基準に沿ってHRVを計算しました。この基準には、約5分間の短い記録と24時間の長い記録それぞれの方法が定められており、最もよく目にする二つの指標も定義されています。

  • SDNN SDNN 記録に含まれるすべてのNN間隔の標準偏差で、単位はミリ秒です。全体の変動を表し、値は記録時間に強く左右されます。 SDNNについてさらに詳しく :正常な拍と拍の間隔すべての標準偏差です。記録中に心拍数に及んだあらゆる影響を反映するため、記録時間が長いほど大きくなります。
  • RMSSD RMSSD 隣接するNN間隔の差の二乗平均平方根。1拍ごとの心拍間隔が次の拍とどれだけ違うかをミリ秒で表すHRV指標で、主に迷走神経の活動を反映します。 RMSSDについてさらに詳しく :隣り合う正常な拍の間隔の差を二乗して平均し、その平方根をとったものです。主に迷走神経、つまり安静時に心拍を遅くするブレーキの働きを反映します。

SDNN: 記録に含まれるすべてのNN間隔の標準偏差で、単位はミリ秒です。全体の変動を表し、値は記録時間に強く左右されます。 SDNNについてさらに詳しく

ウェアラブルデバイスの多くは、リングや時計の光センサーを使い、睡眠中や、短時間で済む朝の測定でHRVを推定します(Oura・WHOOP・Garmin・AppleのHRVを参照)。これは24時間心電図とは別の記録です。そのため、これらの研究の数値やカットオフ値は、アプリの数値にそのまま当てはめることはできません(Task Force, 1996)。

主な研究

研究対象HRVの指標追跡期間主な結果
Kleiger, 1987心筋梗塞を起こして生存した808人心筋梗塞の約11日後の24時間心電図によるSDNN平均31か月SDNNが50 ms未満の人は、100 ms超の人に比べて、死亡のリスクが5.3倍
Tsuji, 1994(Framingham)平均年齢72歳の高齢者736人2時間の携帯型心電図による複数の指標4年74人が死亡。LFパワーが標準偏差1つ分低いごとに、死亡のハザードは1.70倍
Hillebrand, 20138件の研究、心臓病が知られていない21,988人SDNN、 LF LFパワー 心拍間隔の分散のうち0.04〜0.15 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。7〜25秒ごとに繰り返すリズムです。かつては交感神経の活動と読まれましたが、現在は異論があります。 LFパワーについてさらに詳しく 、 HF HFパワー 心拍間隔の分散のうち、通常の呼吸の範囲である0.15〜0.40 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。呼吸が毎分9〜24回のとき、主に迷走神経活動を反映します。 HFパワーについてさらに詳しく 研究により異なるSDNNが最も低い群は最も高い群に比べて、初めての心筋梗塞、脳卒中などの心血管イベントのリスクが1.35倍
Jarczok, 202232件の研究と個人データ2件、38,008人八種類のHRV指標研究により異なる健康な集団でも患者の集団でも、HRVが低いことが死亡率の高さを予測した。5分間のRMSSDが下位四分の一の群は、それ以外の群に比べてハザードが1.56倍

心筋梗塞のあと

初期の研究で最もよく知られているのは、Kleigerら(1987)のものです。24時間記録で測った項目のうち、のちの死亡と最も強く関連していたのはHRVでした。心臓のポンプ機能など、ほかの臨床的な要因を調整したあとも、有意な予測因子のままでした。著者らは、重い冠動脈疾患、心不全、糖尿病による神経障害、加齢でもHRVが低くなると指摘しています。つまりHRVの低さは、すでにある病気を一部反映している可能性があります。

一般の集団

Tsujiら(1994)は、米国で長く続く地域研究であるFramingham Heart Studyの初期参加者の心電図テープを再解析しました。不整脈のある人、余分な拍が多い人、抗不整脈薬を使っている人は除外されています。ほかの危険因子を調整したあとも、HRVの低さは四年間の死亡を予測していました。単独の指標では、低周波パワー(LF)が最も強い予測因子でした。

統合したエビデンス

2013年にHillebrandらが行ったメタアナリシスは、心臓病が知られていない人を対象にした八件の研究を統合しました。HRVが低いと、指標によって異なりますが、初めての心血管イベントのリスクが32〜45%高くなっていました。著者らのモデルでは、SDNNが1%高いごとに、リスクは約1%低くなっていました。

これまでで最大の統合解析は、Jarczokら(2022)による38,008人の解析です。年齢、性別、大陸、健康状態、記録の長さが違っても、HRVが低いことは死亡率の高さを予測しており、HRVの指標の多くで、ハザード比は似通っていました。

相対リスクと絶対リスク

上の数値はすべて相対リスクです。ある集団で、別の集団に比べて何かがどれだけ多く起きたかを示すもので、自分にどれだけ起こりやすいかは示しません。それを示すのが絶対リスクで、その出来事がもともとどれだけ多いかによって決まります。

違いを示すために、架空の例を挙げます。自分と似た100人のうち、今後十年で4人が心筋梗塞か脳卒中になるとします。相対リスクが35%高いと、これは100人中約5人に増えます。見出しにすると大きな数字に見えますが、増えるのは100人に約1人で、100人のうち95人はそれでも何も起きません。

自分で数えてみましょう。自分と似た100人の集団の基準リスクを決め、上の研究の相対リスクを読み込んで、それぞれ何人増えることになるかを確かめてください。

人数で見る相対リスク

ベースラインは仮の値で、相対リスクは実際の値

ベースラインで
4 人(100人中)
増える人数
1 人(100人中)
  • ベースラインでイベントが起こる
  • リスクが高いと増える
  • どちらでもイベントが起こらない

ベースラインが100人中4人だと、相対リスク1.35では約100人中5人になり、1人が増えます。どちらの場合もイベントが起こらないのは、100人中95人です。

JavaScriptをオンにするとスライダーを動かせます。

100人の集団です。ベースラインのリスクを仮に設定し、上で紹介した研究の相対リスクを組み合わせて、見出しの数字が実際に何人の増加にあたるかを数えます。相対リスクは集団どうしを比べる数字です。1人ひとりのベースラインのリスクは、HRVではなく、医師が使うツールから求めます。

10×10に並んだ100個の丸です。塗りつぶした黄色の丸は、ベースラインのリスクでイベントが起こる人、黄色の輪郭の丸は、相対リスクが高い場合に増える人、灰色の丸はどちらの場合もイベントが起こらない人です。1本のスライダーでベースラインのリスクを100人中1〜30人の範囲で設定でき、もう1本で相対リスクを1〜6の範囲で設定できます。3つのボタンで、Hillebrand 2013、Jarczok 2022、Kleiger 1987の相対リスクを読み込めます。各グループの人数が、文で示されます。

実際の数字でも同じことが言えます。比較的高齢のFramingham集団でさえ、四年間に死亡したのは736人中74人で、HRVにかかわらず、約10人に9人は追跡の終わりにも生存していました。

絶対リスクを推定するために、医師は大きな集団から作られたツールを使います。たとえば欧州のSCORE2モデルは、年齢、性別、喫煙、血圧、コレステロールから、10年間の心筋梗塞と脳卒中のリスクを推定します(SCORE2 working group, 2021)。HRVはここに含まれていません。

自分の数値が予測にならない理由

HRVは年齢とともに下がります。 10〜99歳の健康な260人の24時間記録では、50代のRMSSDは10〜19歳の約47%で、その後は横ばいでした。65歳を超える健康な人の12%は、それまでの研究で死亡リスクの高さと関連づけられたカットオフ値を、RMSSDが下回っていました(Umetaniら, 1998)。数値が低くても、その年齢では普通ということがあります。

HRVは日常のさまざまな理由で動きます。 睡眠不足、お酒、きついトレーニング、ストレス、風邪のひき始めは、どれもしばらくHRVを下げることがあります。KleigerとFraminghamの研究は、一人につき一回の記録を使っており、一時的な低下と長く続く水準を区別できません。アプリで一週間低い値が続いても、それは寿命を示す信号ではありません。詳しくはHRVが日ごとに大きく変わるのはなぜ?をご覧ください。

関連は原因ではありません。 これらの研究が示すのは、HRVが低いことと、リスクが高いことが一緒に見られるということです。HRVを上げるとリスクが下がるかどうかを調べた研究はありません。1987年の研究が指摘したように、HRVの低さは、すでにある病気の表れである部分もあるかもしれません。

不規則な拍は結果を誤らせることがあります。 HRVの解析は、正常な拍だけを使う前提で作られており、Framinghamの解析でも余分な拍が多い人は除かれました。不規則な拍は結果をゆがめるため、ウェアラブルデバイスの数値は高くも低くもずれることがあります。理由はHRVで心臓の問題はわかる?で説明しています。

健康年齢スコアの意味と限界

多くのアプリには「心臓年齢」「フィットネス年齢」「心血管年齢」が表示されます。これらのスコアは、デバイスから得た一つの推定値を、同じ年齢の人の典型的な値と比べたものです。

すべてがHRVに基づくわけではありません。Ouraによると、同社の「Cardiovascular Age」(心血管年齢)は、脈波の形から推定した脈波伝播速度(動脈の硬さの指標)に基づいており、リングは医療機器ではないとされています。Garminによると、同社の「フィットネス年齢」はVO2 maxの推定値に基づいており、より新しい時計では運動強度、 安静時心拍数 安静時心拍数 完全に安静にしているときの、毎分の心拍数。成人では通常、毎分60〜100拍で、よく鍛えた選手ではそれより低くなります。 安静時心拍数についてさらに詳しく 、体脂肪やBMIも使われています。

こうしたスコアは、追いかけやすい単純な推移を示し、活動的でいるきっかけにもなります。ただし、病気を診断することも、否定することも、寿命を予測することもできません。上の死亡率の研究は、そのどれも検証していません。数か月にわたる変化は、判定ではなく、生活習慣を見直すきっかけとして受け止めてください。

この情報をどう使うか

  • 同じ方法で測った自分の推移を追い、研究のカットオフ値ではなく、自分のベースラインと比べてください。年齢ごとの目安は年齢別の標準的なHRVのページにあります。
  • HRVを上げたい場合は、HRVを上げる方法:根拠が示すことに、エビデンスが支持する方法をまとめています。最も裏づけがあるのは定期的な運動で、数値がどうなるかにかかわらず、心臓にも良い習慣です。
  • 心臓のリスクを知りたい場合は、医師に相談してください。血圧とコレステロールは、医師が使うリスク評価ツールの一部です。

医師に相談するとき

HRVより症状のほうが重要です。胸の痛み、失神、息切れ、いつもと違う汗のかき方、めまいがあるときは、救急車を呼んでください。余分な拍をよく感じる、動悸が新しく出た、またはいつもと違う、運動や不安や発熱では説明がつかない100を超える安静時の脈拍がある、という場合は、早めに受診の予約をしてください。心臓病がある場合や、高血圧、糖尿病、高コレステロールなどの危険因子がある場合も同じです(MedlinePlus(英語))。HRVの推移を持参してもかまいませんが、必要な検査は医師が判断します。

よくある質問

HRVから寿命がわかりますか?

わかりません。HRVが低いほど死亡率が高いという関連は、大きな集団での平均であり、一人ひとりの予測ではありません。医師が使う標準的なリスク評価ツールは、ウェアラブルデバイスではなく、年齢、性別、喫煙、血圧、コレステロールから心臓のリスクを推定します。

HRVを上げれば長生きできますか?

わかっていません。研究が示したのは、HRVが低いこととリスクが高いことの関連だけです。HRVを上げるとそのリスクが下がるかどうかを調べた研究はありません。定期的な運動のようにHRVを上げやすい習慣は、ほかの理由からも続けるとよいでしょう。

アプリに実年齢より高い心臓年齢が出ました。心配すべきですか?

それだけでは心配する必要はありません。こうしたスコアは、一つの推定値を同じ年齢の典型的な値と比べたもので、診断ではありません。症状や危険因子がある場合や、単に確かめたい場合は、医師に健康診断を相談してください。

出典

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