妊娠中と産後のHRV

多くの研究で、心拍変動(HRV)は妊娠期間のかなりの部分で下がり、安静時心拍数は上がります。出産前の最後の数週間と出産前後には、上昇に転じます。いずれも正常な変化です。HRVでは母体や赤ちゃんの無事はわからないため、注意すべき兆候を常に優先してください。

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要点

  • 多くの研究で、HRVは妊娠初期から後期にかけて下がり、安静時心拍数は上がります。
  • ウェアラブルの研究では、HRVは出産前の最後の数週間に再び上がり始め、出産前後も上がり続けました。
  • 妊娠前よりHRVが低くなるのは想定される変化であり、何か問題があるサインではありません。
  • 数値は、妊娠前の自分や他の人とではなく、妊娠中の自分の推移と比べてください。
  • 出血、強い頭痛、視覚の変化、赤ちゃんの動きの減少などの兆候があれば、HRVの値にかかわらず、すぐに助産師や医師に連絡してください。

妊娠中は、心拍変動(HRV)が通常は下がり、安静時心拍数は上がります。出産前の最後の数週間には、どちらも逆向きに動き始めます。これは正常な変化なので、妊娠前よりHRVが低くなるのは想定内です。HRVでは、母体や赤ちゃんが無事かどうかはわかりません。数値よりも、注意すべき兆候のほうが常に重要です。

妊娠でHRVが変わる理由

妊娠すると、循環全体が変わります。血液量が増え、安静時心拍数が上がります。心拍が速くなると、拍と拍の間隔が変動できる余地が小さくなるため、HRVは下がる傾向があります。

HRVを医療機関で測った研究も、同じ向きを示しています。2022年のシステマティックレビューでは、健康な妊娠でのHRVを調べた研究が八件見つかりました(Sharifiherisら, 2022)。妊娠の時期を比べた七件のうち五件で、SDNNやRMSSDなどの時間領域の指標が、妊娠初期から妊娠後期にかけて下がっていました。周波数領域の指標のバランスの変化を、著者らは、妊娠の終わりに向けて交感神経(「警戒」を担う系統)の活動がより強まったことの表れと解釈しています。研究ごとに方法が大きく異なり、記録は5分から24時間までさまざまだったため、著者らは、正常なパターンがどのようなものかを、まだ言うことはできないとしています。

ウェアラブルの研究でわかること

ウェアラブルデバイスなら、妊娠前から出産後まで、同じ人を毎晩追跡できます。バンドやリングを使って、これを行った研究が三件あります。

WHOOPのバンドを着けた、運動習慣のある女性18人。 ウェストバージニア州の研究者らは、週に三回以上運動する女性を、妊娠前から出産後まで、平均406日間追跡しました(Rowanら, 2022)。夜間のHRVは妊娠中に着実に下がり、安静時心拍数は着実に上がりました。出産の約7週間前にこの傾向が逆転し、HRVは出産の約一週間後まで上がってから横ばいになりました。安静時心拍数は下がり、出産の約三週間後には妊娠前の水準に戻っていました。日々の活動量がより多いことは、HRVがより高いことと関連していました。女性の多くは不妊治療のクリニックを通じて募集されたため、典型的とは限りません。

Ouraのリングによる、5,000件を超える正期産。 Ouraの従業員による研究は、Ouraユーザーの妊娠10,318件を調べ、そのうち5,039件が正期産で出産していました(Adaimiら, 2025)。心拍数は妊娠中に上がり、妊娠32週ごろに、妊娠前の水準より1分あたり約10拍高い値でピークに達しました。HRVはそれと鏡のように動き、最も低い時点で妊娠前の水準を15 ms以上下回りました。最初の低下は、早くも妊娠5週に現れました。出産前後には心拍数が下がってHRVが上がり、妊娠前の水準に近づきました。この研究には診療記録がなく、出産日などの重要な情報は自己申告でした。

WHOOPのバンドによる、241件の妊娠。 WHOOPのスタッフとウェストバージニアのチームによる研究は、正期産220件と早産21件で、夜間のHRVを調べました(Jasinskiら, 2024)。どちらのグループでも、HRVの推移は、妊娠何週かよりも、出産までの残りの週数とよく合っていました。終盤の上昇は、早く生まれた場合でも、近づく出産に連動しているようでした。著者らは、データが少なく、一人ひとりの早産を予測するには足りないとしています。

パターンは全員が同じではありません。ラテンアメリカ系の健康な妊婦13人が、妊娠22週ごろから出産の一週間後までOuraのリングを着けた小規模な研究では、その間にHRVが上がっていました(Sharifi-Herisら, 2023)。妊娠の中ごろから始まっているため、ほかの研究で見られた初期の低下は、この研究では確認できませんでした。

さらに詳しく これらの研究の読み方
  • 小規模または自己選択の集団。 バンドの研究の対象は18人と241人で、規模の大きな研究も、すでにデバイスを持っていた人のデータによるものです。二件は、デバイスのメーカーに勤める人が執筆しました。
  • デバイスの違い。 WHOOPとOuraはどちらも、睡眠中に光センサーでRMSSDを報告しますが、数値は互換ではありません。
  • 平均であって規則ではない。 「15 ms以上」は、数千人の平均的な変化です。自分の低下は、それより大きいことも小さいこともあります。
  • 検査ではない。 これらの研究のどれも、HRVで一人ひとりの妊娠合併症をスクリーニングできることを示していません。

ウェアラブルで妊娠初期に気づける?

後から振り返ればわかることもありますが、決して検査にはなりません。もっとも明確な信号はHRVではなく、体温です。カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らは、報告された受胎の前後180日間について、30人のOuraリングによる指の温度の連続データを調べました。夜間の最高温度は、受胎につながる性交の数日以内に変化し、中央値で約5.5日後には明らかに高い値に達しました。妊娠検査が陽性になったのは、中央値で14.5日後でした。さかのぼって見ると、仮に警告を出すとすれば、検査より中央値で9日早く出せたことになります(GrantとSmarr, 2022)。これは30人の後ろ向きの分析であり、リアルタイムの警告ではありません。著者らが提案したのも、臨床での検証であり、家庭での使用ではありません。

心臓に関する指標も動きます。10,000件を超える妊娠を調べたOuraの研究では、HRVの最初の低下が早くも妊娠5週に現れ(Adaimiら, 2025)、バンドの研究では、安静時心拍数が妊娠初期から着実に上がりました(Rowanら, 2022)。しかし、体温の上昇、速い心拍、HRVの低下は、かぜ、きつい一週間、夜更かし、月経周期の後半でも同じように現れます。リングはこれらを区別できず、妊娠を検出できると承認されたデバイスもありません。妊娠したかもしれないと思ったら、検査を受けてください。

産後

出産後の数週間は、HRVと安静時心拍数が妊娠前の水準に向かって戻っていく傾向があります。Ouraの研究では、産後に睡眠が大きく乱れ、夜間に起きている時間が妊娠前に比べて約90分増え、睡眠は約70分減りました(Adaimiら, 2025)。短く細切れの夜が続くと、夜ごとのHRVはばらつきが大きくなるため、しばらくは推移が安定しないものと考えてください。

自分のデータの読み方

  1. 低い数値を想定しておく。 妊娠中にHRVが少しずつ下がるのは、よくあるパターンです。回復不良や、何か問題があることを意味するものではありません。
  2. 新しいベースラインを使う。 妊娠前の平均は、ものさしとして適切ではありません。今週を、妊娠中のここ数週間と比べます。方法は、レッスンHRVのベースラインをつくり、推移を読むで説明しています。
  3. 単独の夜ではなく推移を見る。 夜間の授乳、胸やけ、トイレのための起床はどれも睡眠を乱し、夜ごとの数値を動かします。週ごとの平均のほうが安定しています。
  4. 心拍数も見る。 安静時心拍数が上がっていくのは、正常な経過の一部です。HRVと安静時心拍数、どちらが重要?をご覧ください。
  5. 測ることが負担なら控える。 しばらく確認をやめてもかまいません。受けられるケアは、数値によって変わりません。

助産師や医師に連絡するとき

HRVでは、母体や赤ちゃんの状態を確認することはできず、測定値が普段どおりでも、問題がないとは決して言えません。米国疾病予防管理センター(CDC)は、妊娠中と出産後の一年間の緊急の警告サインを、次のように挙げています(CDC)。次のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 治まらない、またはひどくなる頭痛、めまいや失神、視覚の変化
  • 38 °C(100.4 °F)以上の発熱
  • 手や顔のひどいむくみ
  • 息苦しさ、胸の痛み、心臓がどきどきと速く打つ
  • 激しい吐き気や嘔吐、治まらない強い腹痛
  • 妊娠中に、赤ちゃんの動きが減った、または止まった
  • 妊娠中の腟からの出血や破水、または出産後の出血やおりもの
  • 脚や腕のひどいむくみ、赤み、痛み
  • 圧倒されるような疲れ
  • 自分自身や赤ちゃんを傷つけたいという考え

何かがおかしいと感じても、深刻かどうか判断がつかないときは、念のため助産師や医師に連絡し、妊娠中であること、または最近出産したことを伝えてください。

よくある質問

妊娠中にHRVが下がるのは普通ですか?

はい。ウェアラブルの研究では、妊娠期間の大半で夜間のHRVが下がり、安静時心拍数が上がりました。最大規模の研究では、HRVは最も低い時点で妊娠前の水準を15 ms以上下回りました。低下そのものは心配する理由にはなりません。

HRVで早産やほかの問題の兆候がわかりますか?

確実にはわかりません。早産となった妊娠ではHRVの推移が出産までの期間に沿っていたとする研究がありますが、著者らは、一人ひとりの早産を予測できる段階にはないとしています。気になる兆候があれば、数値にかかわらず助産師や医師に連絡してください。

出産後、HRVはいつ元に戻りますか?

運動習慣のある女性を対象にした小規模な研究では、HRVは出産の約一週間後まで上がり続けてから横ばいになり、安静時心拍数は約三週間後までに妊娠前の水準に戻っていました。新生児との生活では睡眠が細切れになり、夜ごとの数値が不安定になるため、週ごとの平均で比べてください。

出典

  1. Monitoring one heart to help two: heart rate variability and resting heart rate using wearable technology in active women across the perinatal period BMC Pregnancy and Childbirth, 2022
  2. Wearable-derived maternal heart rate variability as a novel digital biomarker of preterm birth PLOS ONE, 2024
  3. Temporal Trajectories in Sleep, Temperature Trends, Cardiorespiratory, and Activity Metrics Measured via Oura Ring During Pregnancy: Large-Scale Observational Analysis JMIR mHealth and uHealth, 2025
  4. The Utilization of Heart Rate Variability for Autonomic Nervous System Assessment in Healthy Pregnant Women: Systematic Review JMIR Bioinformatics and Biotechnology, 2022
  5. Phenotyping the autonomic nervous system in pregnancy using remote sensors: potential for complication prediction Frontiers in Physiology, 2023
  6. Feasibility of continuous distal body temperature for passive, early pregnancy detection PLOS Digital Health, 2022
  7. Urgent Maternal Warning Signs and Symptoms Centers for Disease Control and Prevention