トータルパワー(TP)

別名:スペクトルの総パワー

スペクトルのすべての帯域のパワーの合計で、単位はms²です。心拍間隔の分散にあたります。5分間の記録ではVLF + LF + HF、24時間ではこれにULFが加わります。

単位:ms²

TP=ULF+VLF+LF+HF=∫00.40P(f) df\mathrm{TP} = \mathrm{ULF} + \mathrm{VLF} + \mathrm{LF} + \mathrm{HF} = \int_{0}^{0.40} P(f)\,\mathrm{d}f

トータルパワーは、心拍変動(HRV)スペクトルのすべての帯域のパワーを合計したもので、単位はms²です。周波数の側から見た、間隔の時系列の分散です。

この指標がある理由

スペクトルは、一つの総量を各周波数に分け与えます。1996年の欧州心臓病学会と北米ペーシング・電気生理学会のタスクフォース(Task Force)は、その総量を独立した指標として挙げました。0.4 Hzまでの、記録全体にわたるNN間隔の分散です。SDNNは分散の平方根なので、トータルパワーは周波数領域でのSDNNの対にあたります。Shaffer、McCraty、Zerrは、24時間ではSDNNがULFパワーおよびトータルパワーと高い相関を示すと述べています。おもな役割は分母です。相対パワーは各帯域をこれで割り、 正規化単位 正規化単位(n.u.) LFパワーまたはHFパワーを、ms²ではなく、二つの合計(LF + HF)に対する割合で表したもの。二つは足すと必ず100になるため、合わせて一つの情報しか持ちません。 正規化単位(n.u.)についてさらに詳しく (n.u.)は、トータルパワーからVLFを引いた値でLFとHFを割ります。

計算式

TP=ULF+VLF+LF+HF=∫00.40P(f) df\mathrm{TP} = \mathrm{ULF} + \mathrm{VLF} + \mathrm{LF} + \mathrm{HF} = \int_{0}^{0.40} P(f)\,\mathrm{d}f

四つの帯域のパワーを足し合わせるか、0.40 Hzまでのすべての周波数ffにわたってパワースペクトル密度P(f)P(f)を足し合わせます。短い記録にはULF帯域がないので、トータルパワーはVLF + LF LFパワー 心拍間隔の分散のうち0.04〜0.15 Hzの帯域に入る部分で、単位はms²。7〜25秒ごとに繰り返すリズムです。かつては交感神経の活動と読まれましたが、現在は異論があります。 LFパワーについてさらに詳しく + HFです。

計算例

リズムを分解する

教材用の記録から5分間

ULF
24時間分の記録が必要
VLF
3 ms²
LF
120 ms²
HF
635 ms²
トータルパワー
758 ms²
LF n.u.
15.9
HF n.u.
84.1
LF/HF
0.19
ピーク
0.250 Hz, HF

休息十分、1分あたり15回(0.250 Hz)、5分、Welch法(トレンド除去後)。 呼吸のピークはHF帯の0.250 Hzにあり、約0.1 Hzの血圧の波が、LF帯の小さなピークになっています。LF/HFは0.19です。

JavaScriptをオンにすると操作できます。

教材用の記録5分間のパワースペクトルです。変動のうち、どの速さの成分がどれだけあるかを示し、Task Forceの周波数帯に色を付けています。高いピークは呼吸です。呼吸を1分あたり9回より遅くすると、ピークがHF帯からLF帯へ移るのが見えます。ドリフトありの記録でトレンド除去をオフにすると、VLF帯が埋まっていきます。

0〜0.5 Hzの周波数に対するパワーの折れ線グラフです。VLF帯(0.003〜0.04 Hz)、LF帯(0.04〜0.15 Hz)、HF帯(0.15〜0.4 Hz)に色が付き、呼吸周波数の位置に印があります。表示欄には、ULF、VLF、LF、HF、トータルパワー(ms²)、正規化単位のLFとHF、LF/HF比、ピーク周波数が表示され、何が変わったかを説明する文が続きます。操作は、1分あたり5〜20回の呼吸数スライダー、記録時間スライダー、トレンド除去のチェックボックス、WelchまたはLomb–Scargleのボタン、そして休息十分、ストレス状態、ドリフトあり、異所性拍動ありの記録を選ぶ4つのプリセットボタンです。

教材用の記録の5分間からは、3 + 120 + 635 = 758 ms²が得られます。同じ間隔のSDNNは28.7 msで、28.7²は約826 ms²です。大きさはほぼ同じですが、ぴったりとは一致しません。スペクトルではトレンド除去と窓かけをしていて、SDNNではしていないからです。ドリフトありのプリセットでトレンド除去をオフにすると、VLF帯域とともにトータルパワーが膨らむのがわかります。

何が値を動かすか

どの帯域でも動かすものすべてです。呼吸、 圧受容器反射 圧受容器反射 拍ごとに心拍数を変えて血圧を安定させる反射。もともと遅れがあるため、心拍数は約10秒ごとに上下します。これがLFパワーに現れる0.1 Hzのリズムです。 圧受容器反射についてさらに詳しく 、ゆっくりしたドリフトがあり、一日では活動と睡眠も加わります。Task Forceの表では、安静仰臥位の定常な5分間の記録で3,466 ± 1,018 ms²とされています。ただし、この正常値は一部が小規模な研究に由来し、概算にすぎないと注意が添えられています。絶対パワーはどれも歪んだ分布をもつため、論文ではその対数が報告されることもよくあります。

誤解しやすい場面

SDNNと同じく記録時間に左右され、プログラムのトレンド除去にも左右されます。ゆっくりしたトレンドを多く取り除けば、トータルパワーは下がります。同じ拍でもプログラムが違えば、トータルパワーは違ってきます。また、パワーがどの帯域にあるかは示しません。それこそが、帯域に分ける理由です。

どこで見かけるか

Task Forceの名称がトータルパワーで、単位はms²です。Kubios HRVは、「相対パワー」の列の分母として使い、手法ごとに報告します。典型的なアプリの画面の読み方は、HRVアプリのLF、HF、VLF、nuは何を意味しますか?で説明しています。

出典

  1. Heart rate variability: standards of measurement, physiological interpretation and clinical use Circulation (Task Force of the ESC and NASPE), 1996
  2. An overview of heart rate variability metrics and norms Frontiers in Public Health, 2017
  3. A healthy heart is not a metronome: an integrative review of the heart's anatomy and heart rate variability Frontiers in Psychology, 2014
  4. HRV analysis methods Kubios

用語集の一覧

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